本と出版流通:おススメ本のページ

『出版をめぐる冒険 利益を生み出す<仕掛け>と<しくみ>全解剖』

出版をめぐる冒険  出版不況が叫ばれて久しいが、こんななか『出版をめぐる冒険 利益を生み出す<仕掛け>と<しくみ>全解剖』(長岡義幸著・アーク出版・定価2310円)という本が出ました。
 通俗的な「出版経営もの」かと思いきや、「成功事例」としての出版社13社を丹念に取材し、なかなか聞き出しにくい「内部データ」等も紹介されおり、業界人や出版に興味のある人には「ほ〜」と思わせる濃い内容となっている。
 取り上げられている出版社は、ディスカバー・トゥエンティワン、メイツ出版、スターツ出版、デアゴスティーニ・ジャパン、トランスビュー、大創出版、ボイジャー(ここまでが第一部で主に新興出版社)。次に、ポプラ社、ミネルヴァ書房、求龍堂、京阪神エルマガジン社、筑摩書房、農山漁村文化協会(この第二部はなじみ深い中堅・老舗出版社)となっている。
 編集人からすると正直言って、「なんで、いまさらそんな版元を取り上げるの?」という疑問も一部、ありましたが、この本の副題にもあるように、独自の出版ビジネスモデルを編み出し、それを実際の販売に結びつけ「成功」をおさめている「実績」を評価してのことでしょうから、一読の価値はありそうです。ちなみに当サイトの副題に「本は作っただけでは、終わらない。」という格言みたいなキーワードがありますが、本書を通読されれば、きっとそのことを実感されるでしょう。


『書籍再販と流通寡占―出版流通改革論2』

書籍再販と流通寡占  出版物の再販制度の是非をめぐって、現在いろんな意見や見解が業界内外から出され、論争になっています。
 しかし、その論争において、いったい何が問題の焦点となっているのでしょうか。また、そもそも「再販制度」とは何か、なぜ雑誌・書籍に適用除外が認められたのか、そしてその運用実態はどうか。こうした点への理解は再販問題を語る上で不可欠ではないでしょうか。
 出版社のアルメディアから、このほど刊行された『書籍再販と流通寡占―出版流通改革論2』(木下修著、四六判・268頁・本体2,400円)は、そうした疑問に答えてくれる本です。特筆すべきは、再販制度を机上の「論」としてではなく、出版流通の歴史と今の実態に沿って論考を加えている点です。この作業によって出版物再販制度の総合的な「検証」の書になっていると思います。巻末には、「出版物再販年表」があり資料性の高い本でもあります。
 再販問題について理解を深めたい読者の方には一読をお勧めします。なお、本書は地方・小出版流通センター扱いの本です。


『街の本屋はねむらない』

街の本屋はねむらない  ここ10年くらいでしょうか、街場の本屋さんに元気がない、とよく言われます。それにはコンビニエンスストアの台頭、大型店の出店等々いろんな理由が指摘されています。しかし街場の本屋さんに、地域の読者がある程度、充足できる商品と環境があれば、お客は足を運ぶのではないでしょうか。これは、ごく当たり前のことですが実は、これをどのようにして実現するかは、とても難しいことですね。
 この課題にヒントを与えてくれる本が、このほど出版されました。『街の本屋はねむらない』がその本で、鳥取市の定有堂書店さんと、東京・目黒の恭文堂書店さんという2つの書店の店長さんが、自店の取り組みを自ら報告しています。定有堂書店さんは「町の本屋という物語」というタイトルで、「普通」をキーワードに自店の存在位置(価値)や読者とどうつながるかを語り、また恭文堂書店さんは「コミュニティーとしての本屋」と題し、地域社会、商品特性、接客、個性化などに言及し、中小書店同士で販売情報ネットワークをつくり「生き残り」を図っていこう、という取り組みも報告されています。
 同じような問題をかかえている書店関係者の方には、一読をお薦めします。また書店に関心のある一般読者の方が読んでも、おもしろいと思います。この本の最後に恭文堂書店さんが語られている「商売はやめたらおしまい!」という言葉が妙に印象的で、「そうだよね」と思わず頷きました。お悩みの書店さんにとっては、ちょっと元気が出てきそうな本ではないでしょうか。
 本書は、アルメディア発行でB6判・並製・122頁・本体1200円、地方・小出版流通センター扱いの本です。


『消える本屋─出版流通に何が起きているか』

 出版社のアルメディアから、『消える本屋─出版流通に何が起きているか』(山田淳夫著、1800円+税54円=1854円)という本が7月上旬に発売されました。ちょっと刺激的なタイトルではありますが、今の出版流通の様々な問題を考える上で、この本はとても参考になる材料を提供してくれています。コンビニエンスストアの台頭と小零細書店の衰退の構図、本の宅配便や出版VANなど流通改善に向けた業界の取り組み状況など、統計数字を紹介しながら的確にレポートしているように私は思います。
 なかでも「本と再販制」と題した章が、私のような不精ものには、ひじょうに参考になりました。再販制度の成り立ちや、出版流通の基本的な仕組み、それに再販問題検討小委による「中間報告」の内容と、それに対する業界の見解(反論)などが、ポイントをおさえてまとめられているため「論点」が見えてきます。また、最近の非再販本の販売取り組みや海外の事例なども紹介されています。
 本当にお恥ずかしい話ですが、本書を読んでわかったのは、再販制度は、「決して小売店に対してメーカーの決めた価格で売ることを義務づけたものではない」ということです。この制度の主旨は、「たんに、メーカーが価格を守らせるために罰則などで小売店に圧力をかけても独占禁止法には違反しませんよ、といっているだけ」というものなのです。本書を読んで、今まで曖昧に理解していたものが、はっきり見えてきたというか、「そうなんだよね」という感じです。
 実際、書店の外商部門では、大口顧客に対しては割引販売を行っているけど、この事実は「法律違反」でもなんでもない。業界も、この件は「暗黙の了解」というか、誰もその事に対して公に「再販違反」だから、その書店に対して「取引停止だ」などとは言っていないよな〜。こんなことを考えていると、「なんだ再販制度はちゃんと弾力的、ないしはケースバイケースで運営されているではないか」とちょっと言ってみたくなりました。なお、本書は地方・小出版流通センター扱いの本です。

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