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地方・小出版流通センター発行情報誌「アクセス」より

新刊ダイジェスト(2021年01月号発行分)

『ブラック・ライブズ・スタディーズ −BLM運動を知る15のクリティカル・エッセイ』●山本伸/西垣内磨留美/馬場聡編著

書影

今年の五月、警察官による黒人男性の暴行死をきっかけに、アメリカ各地で「Black Lives Matter」をスローガンとするBLM運動が巻き起こりました。本書はこの運動に関する評論集です。BLM運動とはどのような背景を持つものなのでしょうか?「第二の公民権運動としての『ブラック・ライブズ・マター』運動」では、公民権運動から続く黒人の権利を求める運動が、BLM運動へ至る過程が解説されています。公民権運動以後、黒人中産階級が社会的な進出を果たす一方で、そこから取り残された貧困黒人層が生まれました。彼らは犯罪や麻薬と隣り合った暮らしを余儀なくされ、黒人と犯罪が結びつけられるようになってしまいます。そこには人種だけでなく社会政策の問題も絡んでいるのでした。「Black Lives Matter」というスローガンも、そうした貧困層で育った人々の中から2013年に生まれたものでした。
「日本における黒人の運動に対する共感と黒人イメージの変化」では、1950年代の日本における黒人イメージを日本文学の中に探ります。特に同じ(白人の支配する)アメリカに抑圧される存在として、黒人と日本人が連帯するべき存在としてとらえられていたのが印象的です。初めて多くのアメリカ人と接する中でそうした黒人イメージが形成されていったことは、かえって新鮮に見えてきます。そのほか取り上げられている話題としては文学・音楽・コミック・アニメなど多岐にわたりますので、関心のあるテーマから齧るように読んでいけます。(副隊長)
◆1800円・四六判・296頁・三月社・東京・202011刊・ISBN9784990775551

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『光秀を追う』●土山公仁著

書影

明智光秀は本能寺の変で織田信長を殺害したことよって日本史上超有名人になってしまった。歴史に「もし」は禁句だが、変を起こさなければ、織田信長随一の家臣として、足利義昭の将軍擁立への関与、丹波攻略の成功、近江や丹波における領国経営、機内近国の庶政の担当(「近畿管領」)、といった大きな実績を残した武将として後世に高く評価されたに違いない。今では信長殺害の張本人というレッテルを貼られてしまい少々気の毒な感じがする。そうした視点から一歩引いてありのままの光秀を眺めてみようというのが本書の狙いである。
第1章「美濃に残る光秀の幻」では、光秀ゆかりの地には後々までも光秀を慕い続け、その事績を語り続けていく人々がいるという事実に著者は目を向ける。従来の光秀像では見過ごされていた名もない民衆の声に耳を傾ける。いわば民衆のヒーローとしての光秀像である。それは虚像でもあるのだが、あえて著者は排除せず受け入れる。第4章「坂本城主光秀」では光秀の茶の湯について言及。光秀は信長や秀吉などの数寄者の範疇に入らないと思われているが、本書を読むと、結構茶の湯や連歌会に参加し自ら主宰しているケースが多いことに気づく。信長との趣向の違いも指摘していて興味深い。信長と光秀のみならずかれらを取り巻く登場人物や出来事について時系列に追跡している本書は、いろいろと教えられることも多く、この時期の政治情勢を知るうえでの有益な書となろう。(I)
◆1600円・四六判・289頁・岐阜新聞社・岐阜・202010刊・ISBN9784877972868

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『とちぎ 廃なるもの −学校・村・鉱山・街道・鉄道 喪われた先人の跡』●手塚晴夫著

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失われたものには、大なり小なりさびしさやわびしさが伴っている。しかし、それらは失われたものがもつひとつの側面に過ぎない。廃校や廃線に興味をもつ人は、さびしさやわびしさを魅力と思っているのだろうか。
本書では、栃木県で生まれ育った著者が、失われたものを「廃なるもの」と称して、廃校、廃村、廃鉱、廃道、廃線の5つのジャンルに分けて、32の廃なるもののあらまし、廃となった時代背景、著者の想いなどがまとめられている。
本書で目を引くものとして、廃線の章に登場する東武矢板線(昭和35年廃止)がある。廃線とともに廃駅となった西船生(にしふにゅう)駅、この駅にまつわる著者と母との逸話は、廃なるものに「記憶がぶら下げられた」好例と言える。 廃なるものには「記憶をぶら下げやすい」という側面がある。その対象が、西船生の隣駅でもある鬼怒川線新高徳(しんたかとく)駅(今も存続)だったとすると、西船生駅のように鮮明な記憶のぶら下げはできなかったのではないだろうか。
人はみないつか亡くなり、「廃人」ではなく「故人」となる。歴史は故人(歴史上の人物)によって作られているが、私達は多くの場合生前の故人を知らない。きっと私達は、歴史を知ることで故人の人物像を見ているのだろう。
廃なるものには歴史があり、掘り下げることで多くのことが見えてくる。「活きていた頃」を知らなくても歴史を知ることで、廃なるものにぶら下げた記憶はより輝きを増していくのだ。(HEYANEKO)
◆1800円・四六判・217頁・下野新聞社・栃木・202010刊・ISBN9784882867685

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『銀河鉄道の夜・四次稿編 第1巻』●宮沢賢治原作/ますむらひろし著

書影

黒板に吊るした大きな星座の図を指しながら先生がジョバンニやカムパネルラたち生徒に問いかける。「このぼんやりと白いものがほんとうは何かご承知ですか」。こんなシーンから始まる宮沢賢治の代表作「銀河鉄道の夜」。改稿を繰り返しながら未完に終わっているのだが、これは第四次稿の冒頭である。
猫と人間が共存する世界を描き続け、デブ猫ヒデヨシと仲間たちが活躍する「アタゴオルシリーズ」で知られる漫画家の作者は宮沢賢治にも影響を受け、「風の又三郎」などの童話を猫に置き換えた作品やエッセイもあり、2001 年にはイーハトーブ賞を受賞するほどの功績があるが、本作は、ヒットしたアニメ映画の原案、「初期形」(第三次稿)に続く「最終形」の第四次稿として自身三度目の漫画化である。未だ謎が多く、だからこそ魅力に溢れるこの童話への作者の思いが生き生きとした猫たちの表情やブルーを基調とした町中の風景からも伝わってくる。とりわけ星座表やジョバンニが働く活版処、時計屋のショーウインドウの中のオブジェなどを描くための参考品探しのエピソードも興味深い。冒頭の先生の問いを亡くなった妹としへの思いと結びつけるという新たな考察もされている。物語世界を全てビジュアルで表現するという難しい試みは成功している。ジョバンニが夜の軽便鉄道に乗り込む序盤までが収録されているが、全4巻完結は2025年を予定。楽しみは鉄道のようにまだまだ続く。(Y)
◆1700円・B5判・168頁・風呂猫・東京・202010刊・ISBN9784904732816

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『あっくんは ねむりたい −眠りの困難と発達障害』●高橋智監修/あっくん著

書影

「おかあさん、ねえ、おかあさん」とあっくんは、夜中にお母さんに話しかける。「あっくん、こんな夜中に起こさないで」とお母さんはつい不機嫌に言ってしまう。「夜になるとみんなぼくを置いて眠りの国へ行ってしまう。独りぼっちの家の中、長くて長くて長〜い夜…電気を消してもあたまの中は明るいまんま、切ったら眠れるスイッチどこだ?」…この絵本は、発達障害に併存する眠りの困難を抱えている子どもが主人公だ。本書の後半は、専門家による眠りの困難を抱える子どもたちの現状報告や、周囲の大人たちがどう接したらいいかについての丁寧な解説となっている。著者であるあっくんこと菊間章紘くんは、発達障害当事者として、自身の感覚過敏や「日常でどう接してもらえると助かるか」等をテーマに17歳の頃からお母さんと共に講演活動を行い、また絵本で自身の経験を伝えることに取り組み、現在は大学で絵画を専攻している。菊間くんの前作は発達障害による感覚過敏に伴う食の困難を題材にした絵本だった。
巻末にはお母さんの子育て記録が掲載されている。この記録の最後に、主治医からあっくんが眠れない原因について「普通は入眠時に活性化しない前頭葉が、発達障害があると活性化してしまうため」と聞いて、仕方ないのだ、とあきらめると同時に自分の育て方のせいではなかったのだ、とホッとした、という箇所がある。同様の悩みを抱えている親御さんにも届けたい言葉である。(N)
◆1500円・188mm×264mm判・27頁・世音社・東京・202010刊・ISBN9784921012373

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『感性のときめき−技術と文化の融合を求めて』●原稔明著

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著者の原稔明氏は河川土木技術者である。1978年水資源開発公団(現・水資源機構)に入社し、琵琶湖開発、日吉ダム、長良河口堰における治水等利水事業に、環境に留意しながら関わってきた。これらの水資源開発施設を造る際に、河川のような自然現象と、ダムなど構造物の人工現象を対象とするには、様々な河川土木の知識が当然必要となると著者は指摘する。さらに、その根底には感性を持つことが大切だと。感性とは「自然、生きものを対象に体がえた感覚が記憶脳とつながったもので、後々な環境の場で自分の人間性、創造力を高める糧・能力となるもの」と著者は定義する。
例えば子供のころに、ふるさとの川で、鮒捕り、鮎捕り、筏遊び等をして自然児として過ごすことは感性のときめきの感覚を自ずから身に着けたことになるだろう。本書の内容は、〈智の巨人南方熊楠との出会い〉〈感性のときめき−平成6年の琵琶湖大渇水学ぶ〉〈空海に学ぶ築土構木の原点〉等で構成されており、感性のときめきの軌跡が記されているが、著者は技術(理性)と文化(感性)について、次のようにまとめている。@現場にて、技術力と人間力を鍛錬し融合すること。A大自然への畏敬と感謝の心を忘れずに、真摯な態度で日々の仕事に励むこと。B技術屋は森羅万象に対し、ミクロの視点で現象を研究分析する。さらにマクロ的視点つまり全体的視点かつ長期的視点で現象を捉えること。最後に彼が詠んだ2句をこの書からあげてみる。感性のときめきがにじみ出ている。〈若鮎の窓一杯に銀の群れ〉〈満ち潮に隠れて上る五月マス〉(古河河川図書館・古賀邦雄)
◆1500円・B6判・ 194頁・サンライズ出版・滋賀・202011 刊・ISBN9784883257096

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『長野県近現代史論集』●上條宏之監修/長野県近代史研究会編

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長野県近代史研究会は1969年に、『長野県教育史』『長野県政史』『長野県史』の修史事業に携わった研究者たちによって結成され、以来、半世紀にわたり、『長野県近代史研究』全10号や『長野県近代史研究だより』全76号の発行、『長野県近代民衆史の諸問題』(龍鳳書房 2008)の刊行など、着実に研究を積み重ねてきた。しかし、会員の高齢化などもあり残念ながら2020年9月をもって解散となった。
本論集は会の幕を閉じるに際し、9人の会員が前著以後の成果をまとめたものである。テーマは、佐久間象山の思想への会澤正志斎と古賀?庵の影響、自由民権家木下尚江の少年期思想形成、長野市街地の都市化と米騒動、戦前期の耕地整理事業による経済更生運動と満州移民抑止、戦間期の農村指導者胡桃澤盛の主体形成、満州分村移民を中止した上水内郡小川村の政策、戦後上田自由大学の再建と展開、伊那谷の郷土研究を担う郷土雑誌『伊那路』と『伊那』、青年会・青年団編集による戦後期の広報誌とこれからの住民参加型広報である。代表の上條氏は、近代地域史研究の目的を、地域による不均等な歴史的展開を意識し、豊かな地域ごとの史実を見据えて地域史の実態を叙述することにあると述べている。
いずれの論考からも地域史はどうあるべきかを考えさせられる。この問題提起を、若い研究者はもとより、広く地域住民も受け止めて欲しいと願わずにはいられない。(飯澤文夫)
◆5000円・A5判・464頁・龍鳳書房・長野・202010刊・ISBN9784947697622

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新刊ダイジェスト(拡大版)

『戦争と俳句 −「富澤赤黄男戦中俳句日記」・「志那事変六千句」を読み解く』●川名大著

書影

新興俳句の代表的な俳人、富澤赤黄男は、〈蝶墜ちて大音響の結氷期〉という代表作で俳句愛好者の間でよく知られている。有季定型と客観写生を不文律とする伝統俳句とは対照的に、超現実的イメージや象徴を多用し、形式面でも切れを意識した一字空白表記(分かち書き)が多い。俳句というよりは現代詩に近い。だが、赤黄男が中国や北千島占守島の出征先で残した句には現実感覚を切り取った優れた句が多いのに気づく。〈戛戛(かつかつ)とゆき戛戛と征くばかり〉〈落日をゆく落日をゆく真紅(あか)い中隊〉〈鶏頭のやうな手を上げ死んでゆけり〉〈藁に醒めちさきつめたきランプなり〉〈流木よこゝは祖国の果の果て〉〈風の中われはオロシアの山見たり〉等々。今回これら前線での俳句についてその背景と生成過程がわかる貴重な資料となる『戦中俳句日記』が本書において翻刻掲載されている。これまでの先行研究においては、この日記の一部には触れられていたが全体が翻刻されるのはこれがはじめてだという。
著者はこの『戦中俳句日記』を丹念に読み込むことで、赤黄男の句集や句誌掲載作品だけでは見えてこない様々な発見を読者にもたらしてくれる。例えば、赤黄男が出征地において、いつどこを転戦したのかについて、日記の記述から地図を示して移動経路を推測していく。また日記にあって句集『天の狼』(昭和16.8)の初版に収録されなかった句を照合して取り出して見せる。〈泥濘の混迷を匍ふ毛虫となり〉〈人多く死にたる丘の風と鳥〉などは現地での辛苦がよく伝わるものだと思うが収録を見送られた。さらには収録された時に表記が改変された句についても比較対照する。例えば〈蒼茫と風の彼方へ死にゝゆく〉は〈蒼茫と風の彼方に雲あつまり〉という全くの別ものになっている。これらついて著者は昭和十五年の特高による、三次に渡る「京大俳句」弾圧事件の影響を見る。赤黄男は、戦意高揚に逆行し、戦死や悪戦を連想させる句を収録することを回避せざるを得なかったのである。
本書後半『「支那事変六千句」八十年目の真実』は、日中戦争期に刊行された改造社の総合俳句誌『俳句研究』に収録された前線俳句と銃後俳句の数の割合において前線俳句が圧倒していることについて疑問を呈したものである。その割合は当時現実に詠まれた前線俳句数や銃後俳句数を反映したものではなく、時局趨勢のバイアスがかかったものであったと著者は言う。その結論を導きだした推測統計学の分析手法は見事なものである。(T)
◆2500円・A5判・206頁・創風社出版・愛媛・202011 刊・ISBN9784860372996

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『戦国時代は何を残したか −民衆の平和・神仏への思い・自然開発』●笹本正治著

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著者は主に甲信地方をフィールドに社会史的なアプローチをする中世史家として知られている。氏が冒頭で、「『英雄』といった形で戦国大名を取り上げることに違和感がある」と吐露するとき、あるいは「戦国大名の事績を熟知している百科事典のような人」、「学生の中にも、私にはとうてい及ぶことができないほど、細部に至るまで戦国大名の知識を持っている者」に対し、「戦国大名知らず」と著者が己自身を卑下する言葉を吐いたとき、わたしはその言葉の響きに何か懐かしさを覚えた。三十数年前、小生が史学の学び舎の末席を汚していたころ、当時の中世史学を牽引していた歴史家たちの著書を拝読する中、これと似た文章に何度か出合ったことがあるからである。
歴史ブームと言われて久しい昨今、歴史に興味を持つきっかけは人によってさまざまであろう。例えば、大河ドラマを観て戦国大名に興味を持ち、まずはかれらの生い立ちやエピソードから調べ始める人もいるに違いない。それも悪くない。そこで終わってしまっては何にもならないが、きっかけとしてなら意味がある。なぜなら歴史と真摯に向き合う人であるならば、戦国武将の逸話が自分自身の置かれている環境との乖離にすぐに気づくはずだからである。自ずとさらなる広い視野や世界観が求められる。歴史は尽きることのない過去との対話であると同時に自己との対話でもあるのだ。著者は、「民衆の視点」「社会的弱者とされる女性と子供」に重点を置いて戦国時代の実像に迫ろうとする。戦国のみならず中世全般に当てはまる慣行にも触れており、戦国史ファン以外にも興味深く読むことができる。かつての社会史ブーム華やかなりし頃に提起されたテーマがあちらこちらに散りばめられていて、お浚いするにはお誂え向きである。
第1章では、人狩り、乱取り、人身売買、辻取、女性の旅など「中世の非情性」を、第2章では、山小屋、武装化する民衆、一揆、アジール、喧嘩両成敗、敵討ちなど「中世の暴力」を、第3章では、鳴動、夢、起請文、金属音(鐘撞、金打)、辻占など「中世人と神仏の関係」を考察。第4章では、自然災害・飢饉・疫病などに対し中世人がいかなる対応をしたのかを考察。予兆や呪術的対処法への依存から積極的な自然への働きかけへと変化する戦国期は、神仏・自然への畏敬の念が薄れた。何々ファーストとの言葉が流行だが、「自分さえよければ」といった風潮の始まりが戦国期との指摘は傾聴すべき。(I)
◆1700円・四六判・300頁・信濃毎日新聞社・長野・202007刊・ISBN9784784073665

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