秋風が吹いたと思いきや、また酷暑がぶり返しています。毎年、このような夏が繰り返すのでしょうか。
中国では、初版以来30年が経過しているにもかかわらず、同じ作者の作品『人生』と合せると累計2000万部のベストセラー長編小説。路遥(ロヨウ)著「平凡な世界」全3巻(ISBN978-4-86516-052-9/〜053-6/〜054-3)各3500円が、三友陽子・國久健太訳で、中国・北京のグローバル科学文化出版から出ました。原題は「平凡的世界」です。
主人公の一人・孫少平は貧しい農民の子ながら高校に進み、日々飢餓に耐えながら外国文学を借りてきては、むさぼるように読んでいました。長兄・少安は幼馴染みである地元幹部の娘・田潤葉への思いを断ち切り、結納金の要らない妻を娶ります。主人公・少平は高校の同級生・設紅梅と読書を通じて互いに魅かれあいますが、同様に家が貧しい紅梅は条件の良い別の同級生に心を移します。身分の差、貧困の前には恋愛にも将来にも明るい光は見えません。兄は村で、弟は町へ出て歯を食いしばり、熱い思いを静かに心の奥にしまい込み、家族は足かせでも負担でもなく、かけがえのない命そのもの、と過酷な運命も受け入れて、懸命に淡々と生きる姿に、失われつつある中国の美しい伝統が描かれています。文化大革命、改革開放による生産責任制の導入など社会の変化に翻弄されるも、農村の人々により重くのしかかるのは貧困であり、生活への憂慮や愛情、結婚における決断です。孫家以外にも、村の有力者の家族をはじめ、身分や立場の異なる人々それぞれの迷い、苦悩、喜怒哀楽がつぶさに描かれている作品で、中国で多くの読者から共感を得ました。第一部が86年に発表され、1988年のラジオ放送、2020年のテレビドラマ放映でベストセラーの位置を確実なものにしました。全3巻2000頁超の小説をベストセラーにする中国人の生きることへの「したたかさ・強靱さ」に感動を覚えます。
●昭和40年代、たった一人になった大阪の講談師・旭堂南陵(きょくどうなんりょう)がともし続けた上方講談の火。東京の講談とはビミョーに違う、笑いあり涙ありサスペンスありのオモシロ話芸。なみはや講談協会編「上方講談という愉しみ−三代目旭堂南陵が守り伝えた話芸の世界へ」1,400円 寿郎社は、上方講談ブームの到来を予感させる出版。ISBN978-4-909281-62-3
●昨年亡くなった元日本勤労者山岳連盟会長が残した山の記録。守屋益男著「登山四方山話 人はなぜ山へ登るのか」1,800円 吉備人出版は、モンブランやキリマンジェロなど世界中の山に挑み、その経験を活かしつつ、指導の傍ら、登山ガイドブックの作成、より詳しく正確な情報を掲載した登山詳細図を考案するなど山の安全を考え続けた著者の登山遍歴と山々や山登りに対する想いを書き記した最期の書。ISBN978-4-86069-751-8
●2022年84歳 で亡くなった、アメリカの児童文学作家・パトリシア・マクラクラン著若林千鶴訳 黒井健画「おじいちゃんの目 ぼくの目」1,300円 リーブルは、目の見えないおじいちゃんは、楽譜を見ないでも正確に演奏できる。家族愛をテーマに優しさあふれる作品。ISBN978-4-910310-08-4
●全て手書きの細密画。花・実・葉・茎・根の細部、毛や薄膜まで。今年92歳になる著者が生涯をかけて描き込んだ植物図譜の完結編。平田浩著「図解・九州の植物 完結編」3,800円 南方新社は385種(種・変種・雑種・品種)を収録。ISBN978-4-86124-524-4 既刊、上巻・下巻(各9000円)は1502種、完結編を入れて延べ1887種類を収録。どの図鑑より網羅性が高く植物同定の座右の書として活用出来ます。
●二宮金次郎以来栃木で行われていた農村復興策=「報徳仕法」の実際。堀野周平著「日光県開墾仕法と栃木の近代」2,000円 随想舎は、二宮金次郎の継承者・久保田譲之介が「仕法」を引き継ぎ、日光県へ普及させ、久保田堀を開削し、いかに農村を復興させたかを書き残します。ISBN978-4-88748-433-7
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