地方・小出版流通センター発行情報誌「アクセス」より
大逆事件は、1911(明治44)年1月、明治天皇暗殺計画を理由に、全国で反体制者と目される多くの人々が検挙され、24名が死刑宣告を受けた近代日本における最大の冤罪事件である。うち12名は無期懲役に減刑されたものの、幸徳秋水ら12名は判決から1週間で処刑された。
死刑宣告者の中に4人の熊本県人がいた。処刑された松尾卯一太ら2人と、無期懲役の2人である。松尾は現玉名市で生れ、東京専門学校(現早稲田大学)に学んで帰郷し、養鶏業に就く一方、社会主義運動に熱中し、『熊本評論』などを発行して他の3人と親しくなっていた。松尾と同郷であったことから、その生涯と思想形成を追っていた著者は、思わぬ事実に遭遇し、奇しき因縁に息を飲むことになる。それは、松尾の子孫(従兄弟)に連合赤軍事件の当事者がおり、健在であることを知ったからである。当事者に面会し、「当事者の責任として、連合赤軍の正確で多面的な記録を残すことが使命」と聞かされ、松尾の謀反の血が脈々と流れていることを感じる。同時進行で連合赤軍の遺族、関係者を訪ね、深層を掘り下げて大逆事件と重ね合わせていく。大逆事件の大量処刑に人々はおののいて労働・社会運動は沈黙した。
連合赤軍のリンチ大量殺人のおぞましさから、若者は政治や社会問題に距離を置いた。それが今の生きづらさや閉塞感につながっているのではないか、負の歴史にこそ学ぶことは多い、耳目を塞いではならないとのメッセージが発信される。(飯澤文夫)
◆2000円・四六判・304頁・熊本日日新聞社・熊本・202402刊・ISBN9784911007068
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奇妙なタイトルに首をひねってしまうが、この小説の中では「死んでから」というのは実際の「死」ではなく社会的な「死」を意味している。
妻カルラと幼い息子の三人家族の俺。物語はカルラが怪しげなバラックのおやじからバカでかいスーツケースを売りつけられるところから始まる。その買い物から帰宅しようとすると、なんと地下鉄が止まってしまい、右も左もわからない場所で降ろされてしまう。なんとか家に帰ろうとするが、言葉もわからず、すべてが裏目に出てしまう。
実は郵便配達をしていた俺は何らかの罪を犯し、故郷のくにから逃げてきて、島に不法滞在をしている。妻は何とか仕事を見つけたが、俺は仕事の声がかかるのを期待して、息子の世話をしながら携帯メールを確認するだけの日々。俺は本当は死んでるんじゃないかと思ったこともある。しかし、次々にいろんなことがありすぎた。一向に家にはたどり着けず、妻とも険悪になり、ついには不本意ながら警察を頼ろうとするが……。
著者は1974年に当時ポルトガルの植民地だったアンゴラに生まれたが、アンゴラの独立によりポルトガルに移った。2012年より東京に在住。ポルトガルは移民の国だが、移民たちの苦労話を正面から描く作家がいないことが不満だった著者。そうした思いが不条理でユーモラスな小説を誕生させた。喜劇仕立ての中に貧困、移民、人種差別などの問題点が含まれる傑作である。(Y)
◆2100円・四六判・253頁・書肆侃侃房・福岡・202402刊・ISBN9784863856035
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食事という営みは人間の生活には欠かせないもので、そこから社会の姿が見えてきたりもします。本書は著者が世界各地の食事の風景を巡って垣間見た世界の姿の記録です。といってもグルメな世界というよりも、もっぱら庶民の食べ物が中心です。
内戦が終わったばかりのリベリア、政治に翻弄されるエジプトの「ゴミの町」、中東・西アジアからの移民が滞留するセルビア・ハンガリー国境、バングラデシュにあるミャンマーを追われたロヒンギャの人たちの難民キャンプなど訪れた場所は多岐にわたります。ある時はベトナムの旅芸人の一座と行を共にし、訪れた先でカエルやネズミをふるまわれたりもしますが、これが意外に美味だそう。またある時はロヒンギャ難民がキャンプで手に入れた食料を工夫して、郷土の味を作ろうとしているのを目の当たりにします。
ちなみにこちらの郷土の味(魚の発酵食品)は著者にとっても少し刺激が強すぎたようですが…。エジプトの「ゴミの町」では、集まった生ゴミで豚を育て、その豚を人が食べるという循環が出来上がっていました。キリスト教系のコプト教徒が従事しているので豚も食べられます。困難な状況に置かれようと(もちろんそうでなくても)、人間が食べ物にありつくために力を注ぎ込むのは同じですし、少しでもうまいものを食べたいと思う心も同じです。今日も世界中に満ち溢れる社会と「メシ」を巡るエネルギーを感じられるドキュメンタリーです。(副隊長)
◆2100円・A5判・270頁・弦書房・福岡・202403刊・ISBN9784863292826
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この写真家にとって本作が初の写真集となる。リビングのカーペットの上で眠る愛らしい二匹の猫や道端の小花、洗い残しの食器が溢れたシンク等、一枚一枚、日常的でありまた静かでありながら、深く写真家の心情が沁み渡っているのを感じることができる。この感じは当初漠然としたものだ。しかし、あとがきに記されたテキストの情報を読むことによってそれが突如として意味の形となって浮かび上がってくるのである。そして、日常的で静かであった一枚一枚が一つの文脈のもとに見るものに迫ってくるようになる。
写真家は2020年2月までおよそ3年4ヶ月の間不妊治療に取り組んだ。今では保険適用の対象となる不妊治療だが、当時はそうではなかった。「少なくとも2,744,006円は使いました。高い方ではないと思いますが、少しもったいなかったなと思います」と写真家は記す。一連の言葉の中でも印象深いのは「この作品は、治療の影響で視覚感覚が変わったことをきっかけに撮影を始めました。日常で見る些細なものが生殖に関わるものや血のように思えてくるほど不妊治療に取り憑かれていました。」という一節だ。改めて写真家の視点と自分の視点を重ね合わせるようにして一枚一枚に見入ってみる。テーブルに置かれた内服薬袋や診療中と思われる写真家自身、そして散乱する医療費領収書の束などは言うに及ばず、食パンに塗られた赤いジャム、濁った池に捨てられた子熊のぬいぐるみ、曇った鏡の水滴が形作る異様な紋様等々がなんと鮮明に鑑賞者の無意識に迫ってくることだろうか。選び取られた写真は、母親が写真家のために作ってくれた幼少期のアルバムを参考にした、と言う。「私の個人的な視点・経験ではありますが、他者となんとか繋がれないかと写真を選び直し続けました。…この光景は、母にあって私にないもの、私にあって母にないもの、共にあるもの、そして誰かの過去であり、未来かもしれません」と写真家は最後に書いている。(U)
◆4000円・236mm×263mm判・40頁・PURPLE・京都・202403刊・ISBN9784991290725
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「どっしりと大地を踏みしめる幹は、象の巨体のようにゆるく波打ち、その頭ほどもある瘤が塊となって樹皮から盛り上がっている。うねるように突き出した枝は、獣の腕のように絡みながら四方八方へ伸びている」(柏原のケヤキー長浜市高月町柏原)。このような巨樹の威容に圧倒された時、人は畏怖の念に打たれずにはいない。その畏怖の念から古来、日本人は巨岩とともに巨樹に神が宿ると感じ、信仰の対象としてきた。今でも日本人の無意識にはこのような樹木信仰、磐座信仰がその基層に息づいているのではないだろうか。それが巨樹巡り、巨岩巡りの旅へと人を誘うのである。本書は、そのような旅に誘われたひとりである著者による北近江の巨樹巡り紀行である。訪ね歩いた巨樹が場所の略図やその威容の写真とともに紹介され、巨樹が神樹となり霊樹となって聖別されるための伝説が紀行文に盛り込まれる。ここではまず先に挙げたような巨樹の描写を愉しみたい。「木は曲がりくねった幾本もの枝が絡み合い、新緑の毛糸を撚り合わせたような葉を茂らせている。の茂る様を見ていると樹齢700年の老樹とは思えない躍動感を感じさせるが、太い幹は樹皮が剥がれて灰褐色に朽ち、苔が張りついている。幹が縦に裂け、裂け目から背後の光がもれている」(清滝のイブキー米原市清滝)。巨樹に関心のある者なら実際に見ずともこのような描写がなされる必然性のようなものを感じることができると思う。
また巨樹に纏わる伝説や歴史物語を知るのもこのような巨樹巡り紀行の愉しみである。そこには必ずやその地域の固有性が刻印されている。長浜市高月町には、旱魃の夏に雨を恵んでくれた竜神への感謝の証しに、ムクノキの下で命を絶った義人の話が伝わる(高月野神塚のムクノキー長浜市高月町高月)。米原市の西山八幡神社の杉並木には、当神社に秀吉が安産祈願をしたところ秀頼が無事生まれ、その感謝のしるしとしてスギを植えた、という伝説が伝わっている(西山八幡神社の杉並木ー米原市西山)。(N)
◆2000円・A5判・125頁・サンライズ出版・滋賀・202403刊・ISBN9784883258116
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