地方・小出版流通センター発行情報誌「アクセス」より
本書は主に著者主宰の書評研究会のメンバーの詩や評論作品を通して長年培われた自身の思想を語る評論集であるが、タイトルにも使われている「奴隷」という概念に注意しないといけないと思う。
この言葉は本書でくり返し言及され、この概念を理解することが本書を理解することだと言っていいと思うが、これはヘーゲル『精神現象学』における主人と奴隷の「承認」をめぐる闘い、という哲学上の理念に由来している。例えば【第一章 汚名を着せられた言葉 杉本真維子『皆神山』】では、「奴隷となって、どのような自恃からも遠い場所で、黙々と何かをつくっていくということが、世界を変革する根本であることは、どのような時代、どのような状況でも明らかである」と、劣位をあえて受け入れる「奴隷」の可能性について言及する。
また【第四章 生と死の循環 岡本勝人『海への巡礼』】では、「ヘーゲルのいう「奴隷」は、その名にふさわしく、「労働者」以上にすべてを奪われた者である。そういうぼろぼろの場所で、途方に暮れているのがこの「奴隷」にほかならない。…そういう無一物の場所こそが人を和解へと導く契機にほかならない…」と奴隷概念の理念性を語る。そして【第九章 詩語の不可能性 田中さとみ『ノトーリアスグリンピース』吉田嘉彦『移動式の平野』】の一節は本書における奴隷概念の最も優れた説明になってる。「〈勇気を出しなさい、海の底にも道がある〉という言葉の何と大いなる響きであることよ」。(N)
◆1800円・四六判・262頁・澪標・大阪・202404刊・ISBN9784860785864
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コロナは私たちの生活様式に様々な変化をもたらした。その最たるものは、不要不急の掛け声のもとでの自粛行動であろう。新聞通信調査会の調査によれば、これに影響を与えた最大の要因は、「メディアの報道」であった。
ではこの間、メディアは大量の情報が錯綜し翻弄される社会に十分な役割を果たしたのだろうか。足りなかったものがあるとすれば何であったのか。発信者として自らに問い、整理、検証を試みたシンポジウムの記録である。冒頭、作家の椎名誠が罹患、入院体験を語り、コロナに限らず昨今の戦争報道においても、国民側もどこか面白がって見聞きしているようなところがありはしないかと危惧する。続いて、時事通信社解説委員小林伸年のコーディネイトでパネルディスカッションに入り、ジャーナリスト・評論家武田徹、ノンフィクション作家山岡淳一郎、医療記者岩永直子、毎日新聞社論説委員元村有希子が、それぞれの報道スタンスをプレゼンテーションする。武田は、メディアは自前の目と耳を持って感染症に向き合うこと、岩永は、行政もメディアも何のために情報を国民と共有するのかというポリシーを整理した上で報道すべき必要性を感じたと述べる。議論は、パニックをあおらない報道の在り方、一例目報道の意味、専門記者をどう育てるか、コロナ報道から得た教訓を論点に行われた。
コロナは終息がみえないまま5類に移行し、報道は激減した。であればこそ、私たちは情報を的確に入手し、見極め、活用する力を持たねばならないと考えさせられる。(飯澤文夫)
◆500円・A5判・102頁・新聞通信調査会・東京・202403刊・ISBN9784907087401
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現場に出て相手の話に耳を傾け、観察をするフィールド・ワークは、今や学術研究においてありふれたものとして行われています。しかしそれをする側ではなく、される側から見るとどう写るのか。本書は民俗学者の宮本常一と、その薫陶を受けた安渓遊地氏によって、フィールド・ワークをされる側の事情がまとめられています。それをひとことで言うと調査する側は、される側に迷惑をかけることが多いということ。
本書では「調査地被害」という言葉も使われています。例えば調査者の意にそわない回答をすると否定されたり、違う研究者たちが来るたびに何度も同じ内容の話をさせられる、というのは調査される側にとってはいい迷惑ですね。そして研究者が貴重な史料類を借り出したまま返却しないとなると、もはや単なる迷惑では済まない問題にもなってきます。宮本は「相手を自分の方に向かせようとすることのみに懸命にならないで、相手の立場に立って物を見、そして考えるべきではないかと思う。」と書いていますがまさにその通りでしょう。残念ながら安渓氏の某島での聞き取りからも、その迷惑の実態が明らかにされています。その他にも調査対象とのかかわり方や、調査地に何をどう還元していくかという問題についても書かれており、実り多きフィールド・ワークのためぜひ参考にしていただきたい書物です。なお今回の増補版では宮本のアフリカ紀行と安渓氏のアフリカでの実践が追加されています。(副隊長)
◆1500円・A5判・150頁・みずのわ出版・山口・202404刊・ISBN9784864260527
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親戚のペピおばさんは、とってもすてきな人だ。正義感は筋金入りで、町のちょっとした有名人。わたしは2、3年に1度の割合で小さな町に暮らすおばさんを訪問した。10年前、最後に訪ねた時、ずいぶん体力が衰え、落ち着きがなくなったように見えたが、夜、わたしが寝ているベッドの端に腰を下ろし、おばさんは突然口火を切った。「きょうは、わたしが人殺しと知り合ってからちょうど15年目なんだよ」驚いたわたしは、おばさんに説明を求めるが……。こんな風に表題作は展開していくが、決して血なまぐさい話ではなく、切ない思い出が語られる。
著者は1920年生まれのオーストリアの女性作家。1970年に50歳の誕生日を迎える前に病死。存命中にいくつかの賞を受賞し、オーストリア文学史における重要な女性作家の一人とされるが、没後はしばらく忘れられていた。しかし、1984年に山の中でたった一人、壮絶なサバイバル闘争を繰り広げる女性を描いた長編『壁』が再版されると再び脚光を浴び、多くのフェミニストや作家に影響を与えた。
本書は少女時代の思い出、大人の生活、戦争の影の3つのテーマで綴られる短編集。友達や動物や家族との思い出、不器用だけれど憎めない大人たち、戦争がもたらす悲劇が凝縮されている。短編小説を書く理由について「自分を喜ばせるため」と答え、長編執筆で少々疲弊しても短編で小さな芸術作品を作り出した満足感を味わえるという。明暗を織り交ぜた世界が読者にも喜びを与えてくれる。(Y)
◆2100円・四六判・223頁・書肆侃侃房・福岡・202404刊・ISBN9784863856219
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