地方・小出版流通センター通信 No.１２５１（2011/08/03）
先日の米国旅行でサンフランシスコで閉店した跡地を見てきた米国第二位のリアルン書店チェーン「ボーダーズ」グループの清算手続きが決定しました。現在ある３９９店は今秋までに全て消えて、約１万７００人の従業員は失職するということです。最盛期1200店超の書店チェーンの消滅は、全米のリアル書店の五分の一かないし四分の一がなくなる勘定です。鳥取で行われている「地方出版文化功労賞」（鳥取県民が地方出版の優れた作品を選び懸賞する）の今年の受賞作は、北海道大学出版会の岩谷明裕編著「日本の国境・いかにこの『呪縛』を説くか」1.600円と、しなのき書房（長野）の角谷敏夫著「刑務所の中の学校」1,400円です。
後者は日本で唯一の刑務所の中の公立中学校の物語として、テレビドラマの原作にもなり、知られましたが、前者はほとんど知られずにいた出版ではないでしょうか？本書は昨年2010年の１月に刊行された本で、日本を取り巻く＜三つの国境問題−尖角・竹島・北方領土＞にチャレンジして、国際関係・安全保障・経済・社会なのど専門家が多様な視点から踏込んだ、日本初の国境問題研究です。一昨年にここに取り上げられた三つの箇所で大きな動きがあったことを踏まえてだろうが、鳥取は「竹島」を目の前にしているからこそ、この本に注目されたのだろうと思います。中央の人は見過ごしがちなこの出版に意義を認め、選んだ選者たちの見識に感謝です。
８月になり、早いところでは稲刈りが始まり、早場米が出回る季節ですが、今年は関東以北のお米は放射能の検査をパスするかどうかが深刻な課題のようです。消費の中で、食はかなりの割合を占めているわけで、肉・魚・野菜・穀物そして果物などもほとんどが影響を受けているわけです。それに外食や中食の素材まで含めると大変な影響になります。生産・流通・消費が全てに携わる人々の生活が不安定になることは、経済的損失とともに、正常な回転が滞りいろいろな場面で不都合が予想され、不安が募ります。
ユネスコの「世界記憶遺産」というものがあるのを、日本の人々は初めて知ったわけですが、今回、これに登録された、九州・田川の石炭・歴史博物館所蔵の山本作兵衛画・作の「炭鉱画」は、一部は、当時良く読まれた上野英信著「地の底の笑い話」（岩波新書）に一部が紹介されていましたが、画集として纏められたのは、１９７３年に福岡の葦書房が出した「筑豊炭鉱絵巻」でした。この時代５千円の豪華本が飛ぶように売れた記憶があります。葦書房の創業したての仕事で、同社の基礎を作ったと言えます。改訂版は1998年に再度刊行されていますが品切れです。直に再版の予定はないとのことです。これとは別に１９６７年に講談社から山本作兵衛著「炭鉱に生きる−地の底の人生記録」というのが出ていました。今回の遺産登録に際して、この本が４４年ぶりに講談社から再刊され、２９日に発売されました。画文集ですので、すべての絵は紹介されていませんが、その一端は読み取れる時タイムリーな出版です。４４年ぶりに甦った本書は、エネルギー問題（電力問題）に揺れる日本社会やそこで生活する私たちにさまざまなことを問いかけているような気がします。
お盆休みのため８月１２日・１３日（金・土）の２日は業務を休み、１５日（月）からは正常営業します。
新刊・これから出る本
●今ならギリギリ間に合うかも知れないと、遠州・天竜で猟と漁を受け継ぐ猟師の極意を取材した、飯田辰彦著「ラストハンター−片桐邦雄の狩猟人生とその『時代』」1,800円鉱脈社は、異能のマルチハンターであり漁師であり猟師でもある片桐氏の狩猟人生と戦後日本の軌跡を追います。ISBN978-4-86061-391-1●主菜・副菜・汁物が段取り良く準備ができる。手早く作るワザ・保存のコツ、バラバラ食時間への対応など、毎日主婦を悩ます食事作りへアドバイス。ベターホーム協会編「ベターホームの家族のこんだて−ほんとうに使える！毎日の献立」1,200円 ベターホーム出版局は、これがあれば、１か月、献立に悩まず過ごせます。献立のほか、かんたん主菜と献立例２８例、材料が無駄なく使える「５分おかず」２４品、煮ものなど「作っておくと便利なおかず」１８品も掲載。ISBN978-7-904544-18-1
●私の目標は、平和を目指してもうろくすることですと言う鶴見見俊輔さんの2005年から2011年の最新時代批評集成、「象の消えた動物園-同時代批評」2,500円 編集工房ノアは、もっとひろく、しなやかに、多元的に世の中の見方が提示されている７月の新刊。ISBN978-4-89271-190-9
●ワールドカップ優勝の土台を築いた元なでしこジャパン・キャプテンがその成長と自らのサッカー人生を語る、池田浩美著「荒れ地に花は咲く」1,429円 アートビレッジは、サッカーへたくそ少女がなでしこジャパンの飛躍を支えたお話。ISBN978-4-901053-81-5
●煙を上げて蒸気を排出しながら動く、生きた機関車が見れる唯一の博物館のすべてをまとめた、西日本旅客鉄道協力／京都新聞出版センター編刊「梅小路蒸気機関車館」952円は、１７の形式の１９両の車両を披露するとともに、扇形車庫、天井クレーン・転車台などの関連設備・施設も紹介。ISBN978-4-7638-0653-6
●戦争の虚しさや無意味さを訴える約束の星「ベガ」の物語。鈴木一美＋浅野ひろこ著「戦場に輝くベガ−約束の星を見上げて」1,200円 一兎舎は、2006年に上映され好評で各地で上映されているプラネタリウム作品の物語を一冊の本に。ISBN978-4-904699-03-4
●放射能汚染の可能性がある水道水。そんな時代だからこそ各地方の湧水への関心が高まっています。十影堂パブリッシング編・刊「関東から車で２時間圏内の名水・湧き水ガイド１５８」1,000円は、日本の名水１００選に選ばれているスポットなど天然水湧水場所を写真と共に紹介。放射能に関するコラム、湧き水を汲む際の便利グッズなども。ISBN978-4-904780-02-2
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