地方・小出版流通センター通信 No.１３５７（2015/11/19）
寒くなってきました。先週訪れた南アルプスの山々は紅葉がはじまったばかり、今月末位がいちばん綺麗でしょう。年末商戦の準備というところですが、本の世界はこれといって引っ張るものがない状況が続いています。今年の読書週間は、蔦屋図書館問題、教科書出版・三省堂の教科書検定に伴う教師接待、書店での「民主主義テーマ」ブｯクフェアーの中止騒ぎなど、業界にとって、悦ばしくないニュースが続報されました。
この厳しい出版環境で船出する出版社もあります。20数年都内の酒場を飲み歩き、きえゆく店のたたずまいや感想などを記した手書き絵をまとめた多田欣也絵と文「二十世紀酒場１ 東京・さすらい一人酒」1,500円（ISBN978-4-908309-01-4）を１０月に処女出版した旅と思索社は、社主の廣岡一昭さんの一人出版社。音楽の道で挫折しフリ−ターを続けていた20年前、まだめずらしかったＭａｃのＤＴＰを習得したのが縁で、パッケージ会社に入り、出版の世界を知り、バスの運転手、業界紙記者などの後に印刷会社への出向をためらい、一人での創業を決意し、今回の出版にたどり着いたということ。出版だけでは食えないので別に採算を確保する手段も営みつつ、具体的な「旅行」だけをテーマにするのではなく、＜人生を旅＞と捉えて、さまざまなテーマと格闘していきたいそうです。
多くのこどもの本を遺して７年前に亡くなった石井桃子さん原作の「山のトムさん」が映画化されて１２月２６日（土）の９時から、テレビＷＯＷＯＷで放送されます。脚本は群ようこさん。出演は小林聡美、市川実日子、ベンガル、もたいまさこさん他。人が幸せに暮らすこと、一緒に暮らす仲間と、山と花と風と鳥と太陽と月、そしてやなちゃな猫トム。原作の石井桃子さんが終戦直後に実践した暮しは、生きるための必死の手段だったむかもしれないが、今を生きる私たちに、なんでもない暮らしの豊かさを伝えてくれるようです。この映画は話題となった「パンとスープとネコ日和」のプロジェクトが制作。自然の中で共に暮らすという感覚が溢れている物語で、そんな暮らしぶりが見直されている時代を反映はているようです。
前の通信で書いた民事再生を申し出た業界第４位の総合取次・栗田出版販売(株)の民事再生案のうち書店の信認金の部分の訂正があります。信認金の全額が保全されるのではなく、信認金のうち小額債権分に充当する５０万円分と50万超の信認金額＊配当率分が、統合を予定している新会社に引き継がれるということです。但し、信認金を入れている書店はほんの僅かだそうです。
新刊・これから出る本
●この本を一冊持っていれば昼飯から散歩、晩酌まで楽しめる。新規加入の星羊社編・刊「横浜市民酒場グルリと」1,500円は、横浜市内に３店舗以上存在する下町居酒屋組合「市民酒場」、横浜の飲兵衛のあいだで最もキャッチ−な本物レトロ酒場の解説を軸に市民酒場周辺（グルリ）の下町を巡るガイド。ISBN978-4-9908459-1-9
●新版の文字手帳の第１弾。文・写真 松本弥「ヒエログリフ文字手帳−自然風土のめぐみ編」2,000円 弥呂久は、古代エジプト文明を当時の人々の豊富な象形文字と本邦初のカラー図版でやさしく解 説。エジプト・スーダン・サハラの遺跡写真、西欧各地の博物館の写真資料満載。図版１７０点以上。ISBN978-4-946482-26-7
●豊臣軍の真田幸村、木村重成はいかに徳川と戦ったか？杉山三記雄著「大阪の陣と戦の街道」1,000円 読書館は、大阪の陣の戦跡と街道を歩くためのガイドブック。関ケ原のような広大な戦場ではなく、沼地に囲まれた細い街道が｢戦場｣となった大阪の戦いの特徴を詳細に描きます。ISBN978-4-925170-33-8
●この一冊で平和憲法＜日本国憲法＞誕生の歴史と非軍事の平和主義実現への道を展望します。村木正則著「いまこそ非軍事の平和主義を」1,300円 青風舎は、明治・大正・昭和の「平和」と「民主主義」の潮流から学び、非軍事の平和を唱えます。憲法関係の充実した巻末資料。作家・早乙女勝元氏推薦。ISBN978-4-902326-52-9
●セイロンティーのふる里をたずねる旅。鈴木睦子著「スリランカ 紅茶のふる里」1,600円 アールイーは、意外と知られていない、スリランカの紅茶農園の生産状況、労働実態や環境を調査し、特に2010年頃より大変貌し、希望に向かって一歩を踏み出し始めた農園システムから、新しい農業ビジネスに変化しはじめた実態を。ISBN978-4-905502-06-7
●小泉八雲文学を支え続けた妻・セツの物語。寺井敏夫著「小説 小泉セツ」1,200円 山陰文芸協会は、ハーンと妻・セツとの愛の物語。おセツのためなら、わたし、英国臣民を捨て日本人となり、日本の土に眠る小泉八雲とセツの歩みを小説で綴ります。ISBN978-4-921080-15-0
●伝統的な農漁村共同体に住む人々の暮しには、自然と共に生きる文化や食、信仰、農漁業の技術、生活の知恵が息づいています。藤井満著「能登の里人ものがたり−世界農業遺産の里山・里海から」1,600円 アットワークスは、その詳細をレポートします。山と海の接点、風土の育む絆、里山里海の可能性など。ISBN978-4-86580-105-7
●関東周辺の山愛好家に人気のエリアです。池田和峰作成・解説・踏破／守屋二郎企画・監修・踏破「奥武蔵登山詳細図」880円 吉備人出版は、秩父線の各駅を起点として、武甲山・武川岳・伊豆ケ岳・丸山の全１３０コースの待望の詳細の完成地図。オールカラーISBN978-4-86069-449-4
●ナナロク社刊、舞城王太郎の最新作、各巻５０話収録の「深夜百太郎 出口」「深夜百太郎 入口」各1500円は宮部みゆき評で11月15日の読売新聞で紹介されました。在庫あります。ISBN978-4-904292-62-4／978-4-904292-61-7
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