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地方・小出版流通センター

地方・小出版流通センター通信 No.1395(2017/09/23)

今回の157回芥川賞の候補作、温又柔作「真ん中の子どもたち」(集英社)について、選考委員の作家宮本輝氏が「これは、当事者たちには深刻なアイデンティティと向き合うテーマかも知れないが、日本人の読み手にとっては対岸の火事であって同調しにくい。なるほど、そういう問題も起こるのであろう程度で、他人事を延々と読まされて退屈だった。」と評したり、朝日新聞が「グローバル化が進む日本社会にとって『国籍』とは何か?台湾籍の作家は問う」という記事で取り上げられたりして論議が興り、めずらしく文学作品を読むハメになりました。

日本人と台湾人の両親の間に生れた主人公が中国本土に留学する話で、著者の自伝的小説だといいます。長く米国滞在をして、米国生れの二人の娘を持つ友人は、宮本輝氏とは反対に「小説としてのスタイルでなければ表現出来ない日本と台湾と中国の近代史、台湾の置かれた現在に至る歴史性を、提示された”ことば”を通して体感し、対岸の火事であったり、退屈であったりと切り捨てることは出来ない」と。”対岸(周辺?)”=外国に身を置いたことのある彼なので共感すると言います。

一方、「中国語の白文、中国読み発音記号のルビなど、スムーズな通読を妨げる要素もさることながら、人間関係が一向に浮んでこず、感情移入も出来ず、一種の観念小説で一番苦手なジャンルだった」と評する方もいます。

二度読み返しました。いろいろな言語が入り交じり読みにくいのはその通りで、印象は強烈なのですが、かっての在日の文学とは異なる新しい世代の表現なのかも知れません。日本人でもなく中国人でも台湾人もない、日本で生れ育った世代の主人公は、中国本土留学の後に母の国台湾に留学し、台湾で中国語を教えるために移住するのですが、そこで教える子どもたちは「新台湾の子」という、台湾人と様々な東南アジア国籍の人との間に生れた子どもたちであることなど、ボーダレスな環境に生きる若者たち姿を認識させられる著作でもありました。

新刊・これから出る本

●「文学ムック たべるのがおそいVol.4」1,300円 書肆侃侃房編・刊は、10月中旬発売。4号は、芥川賞・直木賞Wノミネートの宮内悠介、読書芸人で紹介の木下古栗など。特集は「わたしのガイドブック」澤田瞳子・山崎まどか他が寄稿。翻訳も4本。ISBN978-4-86385-280-8

●チェコの作家チャペックの80年前の寓話が現代に問いかけます。カレル・チャペック著/栗栖茜訳「サンショウウオ戦争」2,600円 海山社は、資本と欲望に支配され、爆発的なサンショウウオの増殖を招いた人類。サンショウウオは人類を絶滅のふちに追い込むのか?チェコ語からの新訳です。ISBN978-4-904153-11-6

●フィンランドで暮すハーバリストの著者が、23種類のハーブの栽培の仕方、収穫のタイミング、加工法、失敗時の対処法、不調時の処方においしいレシピなどのハーブ活用上の大切なポイントを分りやすく解説。ヘンリエッタ・クレス著/石丸沙織訳「フィンランド発 ヘンリエッタの実践ハーブ療法」3,250円 フレグランスジャーナル社は、初心者にとっては優れた基本を抑えた書であり、上級の治療家にとっては要点や常識滴案知識を新たに学び直す書。ISBN978-4-89479-292-0

●もともとは文化人類学や社会学でで使われる調査法<エスノグラフィ−>を使い、トライアスロンをするアスリートへの聞きとり調査を行った著者。自らも計30の大会に出場して、身体、精神、その現代社会との関係性を問うた、八田益之・田中研之輔著「覚醒せよ、わが身体」1,800円 ハーベスト社は、フィールドワークに身体を賭けて入り込み、その身体感覚を通じた全体的な考察によりはじめて迫ることができた成果を一冊にしました。ISBN978-4-86339-092-8

●鎌倉期に下総・千葉氏を支えてきた一族の自立化を追いつつ、その一大勢力となった原氏の系譜と支配構造を明らかにします。千野原靖方著「下総原氏・高城氏の歴史<上>第1部 原氏」1,200円 たけしま出版は、中世、戦国期の両総各地の動向と権力基盤を分析、位置付けます。ISBN978-4-925111-56-0

●米国の東海岸の文化・教育の地・ボストンと政治の地ワシントンで生活する日本人のための生活便利帳最新版。Y'S Publishing編・刊「ボストン・ワシントンDC便利帳 2017年 Vol.13」3,000円の特集は「最新ニューヨーク−いま見ておきたい変わりゆくニュヨーク/ロングアイランド・シティ、フラッシング、ブッシュウィツク、レッドブック、ホーボーケン」、「大人の便利帳〜飲んべえ編は二都市の地ビール紹介」の二つ。ISBN978-4-8123-0091-6

●杉田玄白の「解体新書」に先立つこと87年前に、日本最古の翻訳解剖書が著わされていましたが、それは一子相伝として伝えられ公にはされませんでした。その子孫である著者が背景を探ります。原寛二著「原三信と日本最古の翻訳解剖書」1,000円 石風社は、筆写した、ヨハン・レメリン著「小宇宙鑑」の翻訳解剖書(本木庄太夫訳)も収録。ISBN978-4-88344-274-4

●知られざる逸話に満ちた、アイルランド生れの知識人による、トルストイの時代の記録。E・J・デロン著/成田富夫訳「トルストイ 新しい肖像」3,400円 成文社は、19世紀末葉の文学作品の翻訳から始り、トルストイとの個人的関係を築いた知識人が新しいトルストイ像を形造る試みを通じて、若くして一生の思いを懐き続けたロシアを語るります。ISBN978-4-86520-024-9

●派手なかざりの火炎型と言われる形のものを<縄文土器>と思う人々が多いのですが、実はそれは300年ほどの期間だけのもので、その後美しく進化しました。長野県立歴史館編「進化する縄文土器」1,111円 信毎書籍出版センターは、その進化した縄文中期中葉の中頃の<流れるもようと区画もよう>を軸とする土器の進化型を紹介した「縄文土器展U」の図録です。ISBN978-4-88411-148-9

●利根川流域における開発と土地空間高度利用を考究する試みです。佐藤壽修著「西沢金山の盛衰と足尾銅山・渡良瀬遊水地」1,800円 随想舎は、足尾の隆盛に触発され開発された西沢金山の盛衰と足尾鉱毒問題と利根川水系の水問題解決のためには渡良瀬遊水地の創設が必要不可欠であったことを伝えます。ISBN978-4-88748-344-6


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