地方・小出版流通センター通信 No.1444（2020/11/11）
寒くなってきました。今年は新型コロナのおかげで、ほとんど季節感を味わうことなく、あと１ケ月半で年末を迎える季節になってしまいました。４月初旬の緊急事態宣言を皮切りに、１ケ月で終るだろうというものが２ケ月に延長となり、そして寒く乾燥する１１月を迎え、第３波が始まりかけており、感染者、死者とも増えています。東京も含む関東圏は感染者は多いのですが死者は少なく、医療体制の脆弱な地方において、高齢者を中心に亡くなる方が多いようです。ここでも日本の都市偏重の現実が浮き上がっています。ひどいことにならないといいのですが。
本の需要が減って、出版社は品切れになっても、売れる見込みがないので再版を控える傾向がこの１０年余顕著になっています。品切れでも、ちょっと傷んだ本は結構ありますが、現在の出版流通においては、品質保持ということで、少しでも傷んでいる本は返本となります。読者に説明して、傷んだものでも「良し」ということで届けられるのはほんの一部でしょう。先日、話題となっている「負債論」で有名なアメリカの人類学者デビッド・グレーバーの「ブルシット・ジョブ」のブックフェアーを難波のジュンク堂が企画し、その関連書として、当社扱いの『アナキズム』誌編集委員会発行、ボブ・ブラック著の「労働廃絶論」が選ばれ５冊の発注がありましたが、品切れ寸前で３冊しかなく、それも２冊は上下逆さ綴じの不良本でした。不良本として返品されるものと思っていましたが、書店さんは、もう品切れであり「逆さ綴じ」の主旨を告知・展示して売ったそうです。１冊は売れ、もう１冊は棚に並んでいるとのことです。最期の本を大切に販売してもらえる、幸運な出版です。
新刊・これから出る本
●バブル、アムラー、ナチュかわ、時代を代表するヘア＆メイク。ポーラ文化研究所編著・刊「平成美容開花−平成から令和へ、美容の軌跡３０年」1,500円は、この３０年の美容トレンドや美意識の変遷がわかる一冊。イラストやデータ、グラフなど、ビジュアルで楽しめる平成の化粧文化大全。ISBN978-4-89478-011-8
●島根県立古代出雲歴史博物館の展示会図録です。同館編「日本書記と出雲」1,600円 ハーベスト出版は、今年、編纂後1300年にあたる日本最古の正史「日本書記」。それに見える神話・伝承・解釈を歴史・美術・民俗などの文化財を通じて紹介し、そのなかで「出雲」がどのように捉えられてきたかについても再認識できるように工夫されています。ISBN978-4-86456-356-7
●日本文学の原点とも言える土佐日記。手こぎ船で向かう土佐から京都まで５５日間を船旅物語として再現し、書き言葉による最初の日本文学の醍醐味を楽しめるように記述しています。西野恕（ゆるす）著「紀貫之の土佐日記は航海記」2,000円 リーブル出版は、ヨットで大阪湾から瀬戸内まで海に親しむ著者が「土佐日記」の新しい楽しみ方を試みます。ISBN978-4-86338-281-7
●北海道岩見沢で始めた絵本出版社・冬春創社（とうしゅんそうしゃ）の処女出版です。かたやまじゅんいち：原作／しまざきふうか：絵「そらちむらのぼうけん」1,600円は、北海道のそらちむら（空知地域）の知られざる魅力を主人公犬・ヒロの冒険を通して可愛く、素敵な絵で表現しています。ISBN978-4-910407-00-5
●ベトナム戦争の従軍取材で知られ、多くのドキュメント写真を残している写真家・石川文洋さん。彼が精選したベトナム戦の記録と沖縄の現実を活写した「ベトナム戦争と沖縄−石川文洋フォト・アイ」1,300円 榕樹書林は、カラー１４点を含む全９９点収録のＡ５判写真集で、１１月末刊。ISBN978-4-89805-223-5
●新しく岡山大学出版会を取り扱います。既刊本は４７点ほどあります。新刊を２点紹介します。クリスティーン・Ｍ・クレス他著／吉川幸 前田芳男【監訳】ポートランド州立大学ワークショップアラムナイ【翻訳】「市民参画とサービス・ラーニング」2,100円は、米国で一番住みたい町・ポートランド州立大学で行われてている学問領域や文化の壁を乗り越え行われている学びの紹介です。ISBN978-4-904228-67-8
もう一冊は、金関猛著「フロイトと心の劇場」1,650円です。フロイトの思索に内在する演劇論。精神分析に照射される人の心の劇場的構造。平凡社刊「能と精神分析」（1999年刊）はじめフロイトの翻訳書の多い著者の最新刊です。ISBN978-4-904228-64-7
●世界に飛び出ていった琉球人たちを追ったテレビドキュメンタリーを四半世紀取材し続けた著者による３５ケ国、６０篇のストーリーを一冊に。前原信一著「ワールド・ウチナンチュ−忘れ得ぬ人々」1,600円 ボーダーインクは、それぞれのヒューマンストリー。IISBN978-4-89982-391-9
●語りの名手・素顔の渡辺京二が次の世代に伝えておきたいこと。渡辺京二発言集「幻のえにし」2,200円 弦書房は、最新対談・インタビュー集。「石牟礼道子の草文」、「三回忌に」、「幻のえにし」。「二万字インタビュー１・２・３」は100頁に及びます。ISBN978-4-86329-212-3
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