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地方・小出版流通センター発行情報誌「アクセス」より

新刊ダイジェスト(2018年10月号発行分)

『ようこそ、読書のアニマシオンへ −子どもと本をつなぐ46のレシピ』● 種村エイ子著

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最近、「アニマシオン」という言葉を耳にするようになった。ラテン語を語源とし、知的好奇心を刺激して心を揺り動かすために行われる取り組みで、フランスなどを中心にヨーロッパ南部において様々な分野で応用されているという。鹿児島で図書館、読書運動を続けるグループ「子どもの本かごしま」は、これに学び、子どもたちを本の世界に誘う実践的な取り組みを行ってきた。本書はまさにそのレシピ集である。例えば小学校低学年向きの『どんぐりむらのぼうしやさん』。読み聞かせの後、子どもたちに、物語に登場しない新しい友達を本物のドングリで作ってもらう。
小学高学年向きの「谷川俊太郎になってみよう!」。谷川の詩の一部を空欄にして掲示し、自由な発想で言葉を埋めてもらう。そうしてどちらも、それぞれの思いを聞く。勿論正解はない。楽しく深い仕掛けに乗った子どもたちの賑やかな声が聞こえてくるようだ。そもそも読書とはアニマシオンなのだと思う。
◆1,944円・A5判・205頁・南方新社・鹿児島・20180705刊・ISBN9784861243844

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『大橋誠を求めて −「千葉大腸チフス事件」の冤罪を告発した疫学者』●飯田佐和子著

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今から50年以上前に起きた「千葉大腸チフス事件」。医学実験のためにチフス菌をばらまき集団感染を引き起こしたとして、当時の大学病院の勤務医が犯人として逮捕された。そこには見過ごせない多くの科学的な矛盾や疑問があり、またその当然の結果として一審では無罪となったにもかかわらず、最後は自白(相変わらずの密室での)を最大の根拠に有罪が確定し、長期刑に服した。しかし、数多くの科学的な資料が物語るように、彼はまぎれもなく冤罪で、厚生省(当時)と大学とマスメディアの卑劣な無責任体制の、いわばスケープゴートにされたといえる。
その意味では、これは決して過去の事件ではない。 この官・学・メディアの強固なトライアングルに、科学者として、なおかつ公務員として敢然と立ち向かった一人の疫学者がいた。彼の名は大橋誠。その大橋誠の姿を、本人の遺著や娘の手記、当時の資料などをもとに改めてたどり直し、現在の澱んだ空気に風穴をあける一冊。
◆2,700円・四六判・350頁・一葉社・東京・20180811 刊・ISBN9784871960748

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『今こそお寺に言いたいこと −各界第一人者25人による』●「月刊住職」編集部編

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高齢化や過疎による檀家の減少、果ては葬儀やお墓の不要論など、お寺は現在、厳しい局面を迎えている。しかし、一般社会はお布施が将来自分たちに果報をもたらすと考え、尊敬の念をもって仏教僧団を支援してきており、仏教社会は一般社会と友好関係を保っていた長い歴史がある。そんな仏教界全宗派全ての住職を読者として1974年に創刊された実務情報誌「月刊住職」。28年前から「寺院住職に直言提言する」を連載し、著名人が寄稿しているが、その中から最近のエッセイが厳選された。
政治家、俳優、科学者、作家など各界第一人者による忌憚のない意見が清々しい。信仰は不安から人を守る甲羅なのでは(姜尚中)、寺の鐘を聞くともなく聞く、それだけでも功徳(古井由吉)、「住職」という存在は"同志"としての存在(中村桂子)など、印象的な言葉が溢れ、人生全般についても考察できる多彩な内容である。他に類を見ないユニークさが光り、僧俗を問わず、広く読まれてほしい一冊。
◆2,484円・四六判・213頁・興山舎・東京・20180615刊・ISBN9784908027611

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『しのぶ・あだたらのむかしばなし』●麦わらぼうしの会編著

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福島県の、主に県北地域に伝わる伝説や昔話、寺社縁起から材を採って、県内に住む詩人や文学者が子どもたちに向けて書いた物語集。かつて湖だったという信夫山周辺に伝わる、湖の主と皇子との戦いの物語『湖のたたかい』や、森鴎外の【山椒大夫】でよく知られる姉弟の物語の原話とでも言うべき『弁天山の安寿と厨子王』、廃寺に住みこんだ若き修行僧の悲劇『海に沈んだ少年』、山姥ならぬ、一面のすすきの原っぱに出没する鬼婆の話『安達ヶ原の鬼ばばぁ』等々全30話。
『ふしぎな信夫山』の終盤の次のような文章から、現在の時代に生きる語り手が、まるで紙芝居のように、目の前にいる子どもたちに語り聞かせているスタイルを採っていることがわかる。「…信夫山のふもとにある福島県立図書館にも、大きな石があります。こんど福島県立図書館へ行った時に、ぜひ見てください。あの大きな石は、信夫山の上からガラガラドスーンと、転がり落ちてきたのです…」生き生きとした語りの場面が目に浮かぶようである。
◆1,620円・210mm×210mm・256頁・歴史春秋社・福島・20180721 刊・ISBN9784897579306

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『日本縦断客車鈍行の旅 −昭和五十一年夏、旧型客車で稚内から長崎へ』●田中正恭著

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機関車が牽引する客車列車。特別な列車を除けば、日本ではもう見ることができません。そんな客車列車が国鉄線上から徐々に姿を消しつつあった昭和51 年夏、ひとりの大学生が稚内から長崎まで、鈍行客車列車だけを乗り継ぐ旅に出ました。ただし旅のルートは同じ駅を二度通過しない一筆書き。各駅で入場券を購入し、宿泊はユースホステルという節約マニア旅です。今では無人駅ばかりですが、当時は多くの駅が有人で切符も売っていました。時間が無い時は切符代と返送用封筒を一緒に渡せば、後から自宅まで入場券を送ってくれたといいます。
長岡発米原行や豊岡発門司行など今では考えられない長距離鈍行列車が走っていたのも印象的ですし、普通寝台列車も今ではすっかり姿を消しました。鉄道がまだ交通の主役であった時代の貴重な記録。鉄道という小さな窓から描かれた40年前の風景を読み進むにつれ、その間私たちが失ったものと得たものが心の中に消えては浮かびます。
◆1,728円・四六判・222頁・クラッセ・東京・20180620刊・ISBN9784902841237

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