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地方・小出版流通センター発行情報誌「アクセス」より

新刊ダイジェスト(2020年11月号発行分)

『祝!結婚した』●花井達著

書影

結婚式の主役はもちろん新郎新婦なのだけれど、脇役も黙ってはいない。式の前後、移りゆく時間の中では家族やゲスト、よくわからないまま連れて来られた子どもたちも十分主役級の顔を見せてくれる。表紙からして、新郎新婦よりも目を引くのが、酔っ払って芝生に寝転がる男性二人と彼らを見下ろす子どもたち。このグダグダな様子がたまらない。著者は名古屋を中心に全国で結婚式の写真を撮り続けてきたカメラマン。式当日、新郎新婦は細部や背景までは見られない。そこで著者が二人の眼となって、教えてあげたい瞬間を意識して写真に切り取ってみた。
アルバムを見ながら新婦の白無垢の着付を見守る父、用意された新聞紙の上の紙吹雪、遺影と共に笑顔いっぱいで撮られた家族写真。また、残念ながら列席が叶わないのか、吸入器をつけた祖母の手を握り、笑顔で語りかける新郎など、病院で撮られた写真も数枚あるのが切ないが、どの写真からも人と人とのつながり、祝福の気持ちが伝わってくる。さらに思わず笑ってしまうのが子どもたちの行動。みんなが式に集中し、前方を見ている中で、一人だけジロリと無表情で振り返っている女の子や、新郎新婦の前にあるケーキのフルーツをつまみ食いしてしまう男の子。名古屋の結婚式当日の伝統行事“菓子まき”を示す写真も興味深い。キャプションがない分、想像力が膨らみ、一枚一枚に描かれるストーリーが笑顔と共に平和な気持ちにしてくれる。(Y)
◆2800円・185mm×257mm・96頁・赤々舎・京都・202008刊・ISBN9784865411188

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『マンガ万歳 −画業50年への軌跡』●矢口高雄 語り・イラスト

書影

人と自然をテーマにしたマンガ作品で著名な矢口高雄氏。秋田の雪深い山里で生まれ育ち今年画業50年を迎えるまでの、波乱万丈の半生記をまとめた。地元紙秋田魁新報での連載を元にしている。
貧しく苦労が多かった幼少時の切ないエピソードが心にしみる。12年勤めた銀行を30歳で辞めマンガ家を目指し上京。デビュー後も順風満帆とはいかない。苦しむ中で作品が読者の支持を得た転換点は、恋しさと疎ましさが相半ばするおらが村≠フ記憶を自分の強みとすることだった。「幻の怪蛇バチヘビ」「釣りキチ三平」とヒットが連発する。
中学時代、大好きだったマンガを教育の害虫だと教師から罵られた。後年エッセイが学校教科書へ採択された際、交渉して一緒にマンガも載せてもらい悔しさを晴らした。粘り強さと反骨心は故郷の風土が育んだものだろうか。
聞き書き構成だが文章の達人である矢口氏の瑞々しい文体が香る。「(作中キャラクター)ユリッペは実は女房がモデルなんだ。」といったまっすぐな筆致がマンガ同様とても爽やかだ。
三平シリーズの傑作「少年の夏」を巻末に収録。山と川、少年少女の成長、親子の情愛……。矢口ワールドの魅力満載だ。ご本人も好きな短編で読者へのささやかなプレゼントとのこと。巻頭のカラー口絵、未完「雨沼の鱗剥ぎ」の原画は必見。矢口マンガへの愛があふれるあとがきは、横手市増田まんが美術館館長による。所蔵4万枚以上の原画を見に行きたくなる。(堀内正徳)
◆1300円・四六判・165頁・秋田魁新報社・秋田・202009刊・ISBN9784870204140

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『曽おばさんの海』●班忠義著

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曽おばさんこと曽秀英、中国残留婦人吉永伸子の壮絶な生涯を、彼女と少年時代から交流をもって日本語を学び、日本に留学して作家、映像監督として活躍する著者が、自らの体験と聞き取りによって描いたドキュメンタリーである。開拓団員として満州に渡った曽おばさんは夫と生き別れ、二歳の男の子との悲惨な逃避の果てに中国人と結婚して生き延びる途を選ぶ。だがそれは新たな過酷の半生の始まりであった。
著者は撫順市に炭鉱夫の子として生れ、14歳の時、文化大革命で下放された姉夫婦が住む、市からバスで1 時間、さらに山道を1 時間歩いた村で曽おばさんと出会う。彼女は拙いとはいえ中国語を話し、愛児を亡くしながらも中国人夫との間の二女を育て、文化大革命に協力するが異国の目は冷たく、一時帰国した祖国でも心からは歓迎されない。自分の人生を悔い、意気地無なしと呼ぶ。そんな彼女の犠牲精神や人間性をなんとしても伝え、中国人と日本人の新たな友誼に満ちた関係を築きたいと奔走する著者自身の記録でもある。日本では殆ど話題にならない関東軍による住民虐殺「平頂山事件」の様子も、彼女の生きた時代背景として詳しく語られる。全編まさに凄絶なドラマであるが、著者の眼差しは終始穏やかである。
本書は1992年朝日新聞社刊の再刊で、再刊の後書きに、日本への取材は中国政府の言論統制を恐れ、香港経由で往来したとある。昨今の状況が懸念される。(飯澤文夫)
◆1800円・B6判・253頁・学芸みらい社・東京・202008刊・ISBN9784909783479

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『長野電鉄百年探訪 −公文書・報道・記憶でたどる地方私鉄の歴史』●今尾恵介著

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長野から須坂・中野を経て志賀高原の玄関口である湯田中までを結ぶ長野電鉄は、前身となる河東鉄道が1920年創業ということで、今年でめでたく百周年を迎えました。それを記念して同社のこれまでのあゆみをまとめたのが本書です。
内容は三部構成。第一章は、今尾恵介氏による公文書でみる長野電鉄創成期の歴史。長野電鉄がどういう意図をもって路線を伸ばしてきたかが見えてきます。創業時の路線は屋代〜須坂でしたが、当初から千曲川右岸に沿い路線を伸ばすことを企図し、須坂から木島を経て野沢温泉さらには十日町まで視野に入れていたことが伺えます。その遠大な野望がどのように展開していくのかが読みどころです。第二章は信濃毎日新聞の記事で辿る百年。長野市街地の路線は当初から複線で建設し、その後1981 年にはいちはやく地下化、自社発注車両も導入など地方私鉄としては先進的な取り組みが目を引きます。最近は木島線・屋代線の廃止など暗い話題が続きましたが、地獄谷野猿公苑のインバウンド需要の増大などもありました。コロナ収束後の観光の復活を期待したいものです。第三章は一般から募集したエッセイ。古くからの利用者の手によるものは往時を伝える貴重な証言です。その一方で小さな子どもからの応募もあり、今も長電ファンがすくすくと育っています。
最初から最後までというか表紙カバー裏までも長野電鉄の歴史が凝縮されていて、長野電鉄を深く知るためには必携の一冊です。(副隊長)
◆1800円・A5判・255頁・信濃毎日新聞社・長野・202008刊・ISBN9784784073702

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新刊ダイジェスト(拡大版)

『資本主義の世界像』●オットー・バウアー著/青山孝徳訳

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オットー・バウアー(1881 〜1938)は、オーストリア社会民主党の政治家であり、オーストロ・マルクス主義の代表的な理論家である。第一次大戦で将校として東部戦線に赴き、1914年ロシア軍の捕虜となる。そして、シベリアの捕虜収容所で、資料的制約の下、暇つぶしに本書を執筆したと言われる。ここでロシア革命を体験し、1917年に捕虜交換で帰国した。ハプスブルグ帝国崩壊後オーストリア共和国が樹立されたのち、外務大臣に就任し、オーストリア共和国とドイツ・ワイマール共和国の合邦を目指したという。野党指導者となってからは政権との対決姿勢を貫いた。
バウアー唯一の哲学書である本書を、本人は超越的思想史であると説明する。経済生活や社会的諸関係、国家形態や法といった生存の諸条件が変われば、時代の只中にある人々の意識はそれに感応し、様々な領域で観念の変容を強いられる。内在的な思想の展開を追うのではなく、そのような時代の申し子としての思想体系を掴まえていくという方法である。
例えば、資本主義の興隆期に、封建制秩序が徐々に崩壊し、社会が、伝統的な共同体の拘束から解放された諸個人の集積となっていく過程で、自然像は大きく変換していく。社会の中の分裂し孤立した諸個人という像は、物質はバラバラの原子の集積であると見る自然像へと投影される。個人は原子であり、原子は個人の写像である。「自然観は、資本主義に似せて世界を創る」。また、伝統的な神学的秩序においては、人は原罪を持って生まれ、ゴルゴダの丘でのキリストの贖罪の死によって救済を得る、とされるが、今や、個人は自分の罪によって罪深いのであり、自分の善行によって神の恩寵を得るのである。こういった、時代を貫いていく個別主義は、資本主義の母国で、イギリス経験論として展開していく。真理は、神学者や先行者の説の中にあるのではなく、自分の観察と経験とそして帰納によってのみ認識することができる。
このバウアーの〈超越的な思想史〉は、唯物史観なる言葉こそ使ってはいないが、古典的なマルクス主義の歴史觀そのものではないか、ともとれる。しかし訳者の青山氏はあとがきで、バウアーにおいては経済的土台と観念領域の変容はパラレルな関係にあるとして、そのような見方を避けている。それはそれとして、その辺りの議論に拘泥するよりも、ここでは、時代の社会経済構造の表象としての〈世界像〉が、あらゆる観念領域に投影、転化され、貫徹していく類比と照応の思考宇宙を堪能したほうがいい。(N)
◆1000円・四六判・94頁・成文社・神奈川・202009刊・ISBN9784865200522

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