トップページ地方・小出版流通センターサイトマップ

地方・小出版流通センターあなたはこの本を知っていますか

地方・小出版流通センター発行情報誌「アクセス」より

新刊ダイジェスト(2021年02月号発行分)

『地下トンネルの世界から −未来の土木技術者たちへのメッセージ』●長井士郎・文/田中志津夫・写真

書影

 「土木という言葉からあなたは何を連想するでしょうか」と本書のオビ文が問いかけてきます。無駄な公共事業等を思い浮かべ、悪いイメージを持っている方もいるかもしれません。しかし土木は私たちの暮らしを支えるインフラを築き上げている、なくてはならないものです。
本書はそんな土木の魅力を伝えるべく編まれた一冊です。その中でも特に地下トンネルにスポットをあてています。とりわけ地下トンネルの写真が多く収められているのが本書の特徴といえるでしょう。モノクロで表現されたトンネルは妖しげな美しささえ湛えています。特にシールドマシンで掘られた円形の断面を持つトンネルが、等間隔に配置された明かりの生み出す光と影の中、緩やかなカーブの奥へ線路を飲み込んでいく姿は不思議と心惹かれるものがあります。しかしマニア向けとも思える写真に比べて、解説の方は実に平易に地下トンネルについて語ってくれますので心配は要りません。地下トンネルの掘削方法(前述のシールドマシンについてもちゃんと解説があります)をはじめ、地下トンネル内の構造物のあれこれ、地下鉄のしくみなどについてもよくわかります。巻末には、青山士やヨハネス・デ・レーケといった偉大な土木技術者たちの紹介ページもあります。一見するとトンネルマニア向けの本のようですが、著者たちの土木への愛着と、その魅力を若い世代を含む多くの人に伝えたいという思いも十分に伝わってきます。(副隊長)
◆2000円・185mm×260mm判・70頁・共同文化社・北海道・202011刊・ISBN9784877393458

《オンライン書店で購入》
※主なショッピングサイトのトップページにリンクを貼っています。リンク先の書店によっては、お取り扱いしていない場合があります。ご了承ください。
hontoHonyaClub.com紀伊國屋WebStoreブックサービスセブンネットショッピングe-hon楽天ブックス文教堂Jbooks丸善&ジュンク堂書店アマゾンTSUTAYAエルパカbooksYahoo!ショッピング

地方・小出版流通センターへの直接注文、お問い合わせはコチラをご覧ください。


『秋田・ムラはどうなる』●佐藤晃之輔著

書影

わが国は人口減時代になって久しいが、特に秋田県の人口減少率は著しく、平成29年には100万人の大台を切った。近年60年間の県の人口と小学校児童数は、人口が30%減(135万人→96万人)なのに対し、児童数は80%減(22万人→4万人)にもなるという。戦後からエネルギー革命の頃まで、秋田県に限らず、日本の農山村(ムラ)にはたくさんの人々が暮らしていた。それは暮らしを維持できる「農業」「林業」といった生業があったからだ。政府は「地方創成」を旗印として、さまざまな政策を進めているが、期待に応えるような成果はあがっていない。それはなぜなのだろうか。
著者は秋田県内103の地区をくまなく訪ね、昭和30年代と今の人口、小学校児童数を比較し、「この地区がどうなっていくのか」、読者に投げかけている。そして「働く場の創出なくして、ムラの再生はない」と結んでいる。安定した暮らしを続けるためには生業が必要だ。「伝統行事の復活やイベントの開催は対症療法、働く場の創出こそが根本的治療」、まさにその通りである。
新型コロナウイルス感染症の拡大によって、人の密集の回避、テレワークの推進など、今後時代は大きく動くことになる。これまで都市部に集約し続けた人口が地方へ拡散し、そこで仕事を続けることが現実的な選択肢として浮上してきた。秋田の農山村は、人口減時代の日本の将来を考えるにあたっての先進的な事例を産みやすいかもしれない。(HEYANEKO)
◆1800円・四六判・246頁・秋田文化出版・秋田・202012刊・ISBN9784870225947

《オンライン書店で購入》
※主なショッピングサイトのトップページにリンクを貼っています。リンク先の書店によっては、お取り扱いしていない場合があります。ご了承ください。
hontoHonyaClub.com紀伊國屋WebStoreブックサービスセブンネットショッピングe-hon楽天ブックス文教堂Jbooks丸善&ジュンク堂書店アマゾンTSUTAYAエルパカbooksYahoo!ショッピング

地方・小出版流通センターへの直接注文、お問い合わせはコチラをご覧ください。


『三島事件その心的基層』●安岡真著

書影

作家、三島由紀夫が私兵部隊、楯の会の会員4名と共に陸上自衛隊市ケ谷駐屯地を訪れ、憲法改正のため自衛隊の決起を呼びかけた後に切腹自害した衝撃的な「三島事件」。昨年は事件後50年の節目の年として関連書籍刊行やイベント、雑誌の特集が数多く組まれた。
翻訳家・文芸評論家で現在東京国際大学准教授である著者は事件当時14歳。生まれて初めて「他者」の心を目の前に突きつけられ、評論と解釈を鋭く要求する存在として印象づけられたと言う。
1944年9月、学習院高等科を首席で卒業した三島は文科総代として宮中に参代し、昭和天皇から銀時計を拝受する。しかし、その後の入隊検査で風邪気味だったところを肺湿潤と誤診され、即日帰郷を命じられて「天皇」と「軍隊」という2つのコンプレックスを抱え込むことになる。代表作「金閣寺」で燃え落ちる寺を旧陸軍の幻像とみなし、軍隊としてよみがえってもらいたいという願望を示し、「豊饒の海」第2巻「奔馬」で事件のシナリオを描き出す。世界周遊旅行先のローマで見た「聖セバスチャンの殉教」図に憧れ、本書の表紙カバーに写る原形をとどめぬほど壊れた彫刻「母のヴィナス」像(著者撮影)をも絶賛する三島は対象の中に死=崩壊を見て、それを美しいと感じる傾向があった。
死して再生するという自己救済こそが事件の真因とする著者。事件を読み解くことにより、現代に“転生”した三島をあぶり出す。(Y)
◆2500円・四六判・332頁・石風社・福岡・202011 刊・ISBN9784883442980

《オンライン書店で購入》
※主なショッピングサイトのトップページにリンクを貼っています。リンク先の書店によっては、お取り扱いしていない場合があります。ご了承ください。
hontoHonyaClub.com紀伊國屋WebStoreブックサービスセブンネットショッピングe-hon楽天ブックス文教堂Jbooks丸善&ジュンク堂書店アマゾンTSUTAYAエルパカbooksYahoo!ショッピング

地方・小出版流通センターへの直接注文、お問い合わせはコチラをご覧ください。


『惟喬親王伝説を旅する』●中島伸男著

書影

惟喬親王は文徳天皇第一皇子として承和十一年(八四四)に生まれた。しかし、当時の権勢争いの渦中に投げ込まれ、二十九歳で出家後、比叡山麓の小野郷(左京区大原上野町鞍馬二ノ瀬町、北区雲ヶ畑町、大森東町など)で隠棲し、世間的な栄枯盛衰の圏外で生きることになったとされる。歴史上実在した人物であるはずだが、出家後の足跡が記録に乏しく、没年も諸説あるようだ。そのため、悲劇的な生涯と相俟って各地に様々な惟喬親王伝説が生まれ息づくことになった。
本書は、その惟喬親王伝説を京都、滋賀を中心に各地に訪ね収集記録した集大成である。今に伝わるそれら伝説のうち代表的なものが惟喬親王木地師祖神伝説であろう。権勢争いに巻き込まれて京都から落ち延びた惟喬親王は近江の小椋谷に隠棲し、ある時経巻が軸の紐を引くとくるくる回ったのを見て轆轤を考案した。そして村人たちに挽物(木の器など)の作り方を伝授した…東近江小椋谷に生まれたこの伝説は江戸初期から広く全国の木地師の間で伝播していった。本書では様々なバリエーションをもつこの木地師祖神伝説を遠く神奈川や福島までたずね渉猟している。
一方で著者は、親王の隠棲地であるとされる京都小野郷においては、このような惟喬親王木地師祖神伝説は見当たらないという。その辺りでは親王はあくまでも、皇位継承の望みを絶たれ遁世、隠棲の生涯を送った悲劇的な貴人といった像になっている。親王伝説にみられるこの二つの流れを頭に入れて本書を読むとても興味深いものとなるだろう。(N)
◆3500円・B5判・379頁・サンライズ出版・滋賀・202012刊・ISBN9784883257089

《オンライン書店で購入》
※主なショッピングサイトのトップページにリンクを貼っています。リンク先の書店によっては、お取り扱いしていない場合があります。ご了承ください。
hontoHonyaClub.com紀伊國屋WebStoreブックサービスセブンネットショッピングe-hon楽天ブックス文教堂Jbooks丸善&ジュンク堂書店アマゾンTSUTAYAエルパカbooksYahoo!ショッピング

地方・小出版流通センターへの直接注文、お問い合わせはコチラをご覧ください。


新刊ダイジェスト(拡大版)

『不知火海民衆史 上 論説篇』●色川大吉著

書影

豊かな海を奪われた怒りと、病と差別に苦しむ漁民の魂の声をつづった不朽の名作『苦海浄土−わが水俣病』(講談社 1969)の著者石牟礼道子が亡くなって3年が経つ。新日本窒素肥料株式会社(チッソ)が排出し続けてきたメチル水銀が原因と、1956年に公式確認され、公害の原点といわれる水俣病。この本なくして世に正しく知られることはなかったであろう。1978年からおよそ10年間、当時50代で東京経済大学で日本史担当の教授であった著者は、石牟礼に懇望され、不知火海総合学術調査団長として全身を投じた。副団長は民俗学の鶴見和子、ほかに哲学の市井三郎、宗教学の宗像巌、経済学の小島麗逸、民俗学の桜井徳太郎ら錚々たるメンバーが集まった。この画期的な共同研究の成果は、1983年に著者編で、『水俣の啓示−不知火海総合調査報告』上・下(筑摩書房)にまとめられた。
本書上下2冊はそれを補完するものとして編まれたものである。上は、著者が学術調査の一環として発表した数多くの論考の中から、現在では一般に閲読が困難な東京経済大学の紀要や『季刊不知火』などに発表した、「不知火海漁民暴動」(1)(2)、「近現代の二重の城下町水俣−その都市空間と生活の変貌」、「公害都市水俣における人間と自然の共生の問題−汚染海域の環境復元と患者の現況及び環境教育について」、「新しい村へ−足尾→秩父→三里塚→水俣」、「不知火海総合調査三年目の夏に」、「鶴見和子と水俣」と、それ以前に書き下ろした「「支援」ということ」の7点の論考を収録する。「不知火海漁民暴動」は、1959年に漁民2000人余がチッソ水俣工場に乱入した歴史的事件の経過と意義を、裁判資料や漁民の証言をもとに追ったものである。暴動はチッソと国の責任を白日にさらし、それまでの矛盾を一気にさらけ出した一方で、漁民を差別疎外していく構造も作った。漁民大衆の怒りを組織化できなかった運動の不備を指摘する。「鶴見和子と水俣」は短文ながら、鶴見の愛すべき人柄と共に、報告書を巡る座談会での鶴見の厳しい自省と水俣の人たちに対する憂慮が記され、胸を衝かれる。
それから40年余が経ち、著者は95歳になったが、今も歴史家として社会に厳しい目を向け、警鐘を鳴らし続けている。この浩瀚な2冊は、水俣に通いつめた日々が朽ちない価値を持っているとの思いから自費出版したものである。敬服するほかはない。(飯澤文夫)
◆2400円・A5判・298頁・揺籃社・東京・202010刊・ISBN9784897084336

《オンライン書店で購入》
※主なショッピングサイトのトップページにリンクを貼っています。リンク先の書店によっては、お取り扱いしていない場合があります。ご了承ください。
hontoHonyaClub.com紀伊國屋WebStoreブックサービスセブンネットショッピングe-hon楽天ブックス文教堂Jbooks丸善&ジュンク堂書店アマゾンTSUTAYAエルパカbooksYahoo!ショッピング

地方・小出版流通センターへの直接注文、お問い合わせはコチラをご覧ください。


『不知火海民衆史 下 聞き書き篇』●色川大吉著

書影

不知火海総合学術調査で著者は、水俣病裁判原告団長や土地の名家の当主、患者とその家族、当時の町議会議員、漁師などから繰り返し聞き取をりし、多くを羽賀しげ子との共同執筆で東京経済大学の紀要に発表した。本書は羽賀がまとめた『不知火記−海辺の聞き書』(新曜社 1985)を主体に、2012年と20年に社会学者桜井厚が著者にインタビューした「不知火海総合学術調査団のころ−色川大吉聞き書」を付している。『不知火記』は現在は絶版で入手しにくいことから、初出掲載の紀要から原初の形のまま収録している。
著者による聞き書は、「熊本水俣病裁判原告団代表 渡辺栄蔵翁の記録」(1)(2)、「創生期の水俣−前田千百聞き書」(羽賀と共同執筆)、「明治・大正の水俣−前田千百聞き書」(同前)、「獅子島にて−湯元クサノ聞き書」(同前)、「女島にて−井川太二聞き書」(同前)、「きれぎれの思い出−杉本栄子聞き書」(同前)、「御所浦島にて−白倉幸男聞き書」(同前)、「漁師八十年−下田善五聞き書」(最首悟、羽賀と共同執筆)の9点である。1979年の調査の折には、「水俣の図」を描くために取材中の丸木位里・俊夫妻の来訪を受ける。水俣について余りの無知識にあきれながらも、石牟礼家に案内し、渡辺栄蔵や、水俣一陽気な患者で、「水俣病患者の魂の陰影を言語化できるシャーマン的女性」杉本栄子の聞き取りに誘う。この時の丸木夫妻の発言も記録されていて興味深い。湯元クサノが住む獅子島は、不知火海を挟んで水俣の対岸にある鹿児島県の小島である。そこで最初の認定患者となった湯元は、患者として疎まれ、僅かな見舞金に羨望の目を向けられる。病の辛さと差別・中傷へのやり切れぬ悔しさを著者はこまやかにすくい取る。
聞き書は、自ら表現しない人、できない人の歴史を紡ぐ有効な方法である。著者はインタビューで、聞き書は文献での確認作業を要する補助資料ではあるが、「実感として、魂として、一番大事なものは聞く相手との魂の交流です。」と述べている。民衆史という新しいジャンルを打ち立てた著者の真髄に触れる言葉だ。話者との魂の交流が成立した時、聞き書きはこんなにも豊かなものになるのかと感動する。著者が問うた近代化の意味を考え直せば、「水俣」はまだ終わっていない。(飯澤文夫)
◆2600円・A5判・350頁・揺籃社・東京・202010刊・ISBN9784897084343

《オンライン書店で購入》
※主なショッピングサイトのトップページにリンクを貼っています。リンク先の書店によっては、お取り扱いしていない場合があります。ご了承ください。
hontoHonyaClub.com紀伊國屋WebStoreブックサービスセブンネットショッピングe-hon楽天ブックス文教堂Jbooks丸善&ジュンク堂書店アマゾンTSUTAYAエルパカbooksYahoo!ショッピング

地方・小出版流通センターへの直接注文、お問い合わせはコチラをご覧ください。


baner

株式会社 地方・小出版流通センター
郵便番号162-0836 東京都新宿区南町20
TEL.03-3260-0355 FAX.03-3235-6182

電子メールでのお問い合わせは、chihosho●mxj.mesh.ne.jp まで。

*お手数ですが、●の部分を半角のアットマーク「@」に書き換えてご送信ください。スパムメール対策のためです。すいませんがご了解ください。

当ページに掲載されている記事・書誌データ・写真の無断転載を禁じます。


トップページ地方・小出版流通センターサイトマップ