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地方・小出版流通センター発行情報誌「アクセス」より

新刊ダイジェスト(2021年09月号発行分)

『戦国人 −上州の150傑』●群馬県立歴史博物館編

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関東における戦国時代の始まりは、享徳3年(1454)の鎌倉公方(古河公方)足利成氏による関東管領上杉憲忠謀殺事件とするのが一般的だ。上野国は南北朝以来上杉氏(のち関東管領)が守護であったことから上杉氏(とくに山内上杉氏)との関係が深い。このことが上州の歴史に複雑さをもたらす要因となる。戦国期の上野国は自前の戦国大名はついに誕生しなかった。北からは関東管領を引き継いだ上杉氏(守護代長尾氏)、西からは武田氏、そして南からは北条氏が上野国を舞台に領地争いを展開する。現地の国衆(戦国領主)らは彼らの傘下に入って協力関係を結んだり、あるいは家臣となって知行地を宛行われ、軍役に従事する道を選ぶ。国衆同士も小領主が有力領主に従属するケースもある。著者の一人簗瀬氏が提唱する「上州戦国マンダラ」はこうした複雑な上州の社会構造をわかりやすく図式化しているのでとても有意義だ。
本書は群馬県立歴史博物館のモーニング講座「上州の戦国人」を基に再構成したもの。県内出身の若手中世史研究者14人が分担執筆。上州の戦国人150の「人や集団」を取り上げる。県内を12の地域に区分、各地域の主要な人物や出来事を章ごとに解説しているので関心のある地域の章から読み始めることができ便覧として使えるが、戦国期の上野国の地域的特徴を知る手掛かりを与えてくれる。北毛・東毛・中毛・西毛別に歴史の推移をみていくと新たな発見があるかもしれない。(I)
◆1600円・A5判・299頁・上毛新聞社・群馬・202107刊・ISBN9784863522886

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『商人や旅人がはこんできた山口の昔話』●大鷹 進 絵/黒瀬圭子 再話

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 「山口の昔話」ではなく「商人や旅人がはこんできた山口の昔話」である。一見してなんとも興味深いタイトルではないか。あとがきによると、著者にあたる再話者の黒瀬さんは昭和三十六年に山口県の農村に嫁いできて、釣瓶で水汲みをしたり、五右衛門風呂で薪を燃やしたりという、まるで民話の世界を彷彿とさせるような生活を送ったとのこと。昭和五〇年、町に新幹線の駅ができたことで静かな農村の風景が一変、それから数十年が経ち、語りの文化が失われてはいけないと、日本民話の会に所属し、採訪や語りの楽しさに触れてきた中で、山口の昔話として語り伝えられているものに、他でよく知られる昔話が多くあると気づいた。この、山口のお話として伝えられてきたのに他とよく似た昔話のことを黒瀬さんは、「商人や旅人がはこんできた」と表現しているわけである。
私たちが「共通の型を持っている」などといかめしく言うより、よっぽど詩的で素敵である。さてそんな、本書に採録されている昔話の数々を見ていると、例えば、「むかし、周防の国のある村に、二人の娘がおりました」で始まる『粟福御寮』は、まるでシンデレラ姫の日本版、いや山口版といったお話である。「むかし、長門の国の山深い村に、たいそう貧乏な…」と始まる『大つごもり長者』はちょっと変わった『笠地蔵』である。商人や旅人がはこんできて山口に根付いていく過程を想像しながら楽しみたい。(N)
◆1300円・A5判・86頁・石風社・福岡・202107刊・ISBN9784883443048

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『印税稼いで三十年』●鈴木輝一郎著

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30年前にデビューした時から新刊書店まわりを続ける小説家・鈴木輝一郎。今でこそ定着しているが、当時は誰もやっておらず、書店まわり第一号を自任する著者だが、元をただせばデビュー当時の担当編集者に「何もしなければ輝一郎さんは消えてしまうので、何か考えてください」と言われ、演歌歌手がレコード店の店頭でカラオケで歌うキャンペーンからヒントを得て始めたのがきっかけ。人の心と時代は、こつこつ続けると融けるし変わるもんではあるという境地に辿り着く。
デビュー後、日本推理作家協会賞を受賞し、歴史小説にも進出、エッセイや小説指南書も執筆し、2011 年からは小説講座も始め、そのダイジェスト動画を配信し、大活躍中の著者が「作家として生き残るための54の方法」を伝授。処世術編、執筆編、健康編、心がけ編、プロモーション編の5つに分かれている。本音が飛び交い、時には自虐的になりながらも、サラリーマン時代や祖父から続いていたけれど廃業してしまった左官コテ製造会社の話、アルコール依存症なども散りばめられるが、小説を書き続けてきたプライドは揺るがない。いい作品が売れるとは限らないが、努力に酔わず、情熱に甘えず、生き残っていれば必ずいい作品は書けるとアドバイス。ユーモラスな語り口の中にいくつもの真実が詰まっている。30年の経験に裏打ちされた言葉は小説家に向けただけではなく、あらゆる人々への応援歌としても役立つであろう。(Y)
◆1600円・四六判・229頁・本の雑誌社・東京・202107刊・ISBN9784860114602

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『下野の水路 −鬼怒川水系をゆく』●竹末広美著

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鬼怒川は、栃木県日光市北方鬼怒沼山の南西麓奥鬼怒沼に源を発し、帝釈山の中を東に流れ、男鹿川・板穴川・大谷川を合わせる。さくら市と宇都宮市境で再び南へ向きを変え、さらに小山市と二宮町を流れ、茨城県筑西市に入って守谷市で利根川に注ぐ。流域延長176.7km、流域面積1760.6km2の一級河川である。
鬼怒川は古くから流域の人々に多くの恵みを与えてきたが、その反面洪水を引き起こし、被害を及ぼしてきた。
第1 章五十里洪水では、天和の大地震によって五十里湖が出現し、五十里村が村ごと移住せざるを得なくなったことが記されている。湖水の水抜き工事が天和、宝水と続く。さらに洪水は起こる。足尾台風による明治35年の洪水。洪水を防ぐための鬼怒川改修、五十里湖堰堤の建設が進む。
第2章治水と用水では、江戸期の大名手伝普請、国役普請、大谷川下流域の用水普請、二宮尊徳の二宮堀を資料に基づき紹介する。
第3章筏流しと舟運では、上流域には豊富な山林資源が拡がっていて、江戸期から盛んに宇都宮藩の城下整備、江戸藩邸の建設のため、筏流しが行われてきたことが取り上げられている。 第4章川のめぐみでは、魚類が豊富で、ヤマメ、イワナ、アカハラ、アユ、ウナギなどがとれる豊かな川であることがわかる。上流には、鬼怒川温泉が湧き、景勝地も多い。鬼怒川流域では、舟の安全無事を祈り船魂様が信仰された。さくら市阿久津に船魂神社が鎮座する。鬼怒川には様々な川文化が遺っている。(古賀河川図書館 古賀邦雄)
◆2000円・四六判・165頁・随想舎・栃木・202106刊・ISBN9784887483927

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『村野藤吾と俵田明 −革新の建築家と実業家』●堀雅昭著

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日本を代表する建築家村野藤吾。多くの建物を世に残しましたが、山口県の宇部市にはとりわけまとまって彼の手になる建物が集まっています。村野の宇部での最初の作品である渡辺翁記念会館は1937年の竣工ではありますが、今見てもそのデザインなどに古びた姿は感じられません。そのモダンな造りには目を惹かれるものがあります。またこちらも戦前の建物である宇部窒素工業事務所棟は曲線を用いた、工場の事務所とは思えない斬新な建物です。その村野を宇部に導いたのが「宇部のモンロー主義」とも呼ばれる明治維新に遡る独特の土地柄です。その中心人物が宇部興産株式会社の社長でもあった俵田明でした。
そうした宇部の独特な気風について著者は、排他的とも言われる自給自足主義と評しています。そして俵田らが宇部で進めた様々な施策はナチスドイツの「革新」的な社会福祉政策にも重ね合わされています。その一方で村野も一部の建物の意匠にナチスのシンボルを用いています。ファシズムにある種の「革新」的なものを見出した点がふたりを結びつけたのでしょう。またその独特の風土を育んできた宇部の街の歴史も興味深いものです。
ただ本書ではナチスの福祉政策などを評価しすぎているきらいがあります。ナチスの政策はユダヤ人等の迫害や対外膨張主義とも表裏一体で切り離せないものです。そうした点に触れずに「宇部のモンロー主義」に重ね合わせているのは気になるところではあります。(副隊長)
◆2200円・四六判・300頁・弦書房・福岡・202108刊・ISBN9784863292284

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『窓の向こう −ドクトル・コルチャックの生涯』●田村和子 訳/アンナ・チェルヴィンスカ・リデル著

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 1989年11 月の国連総会で「子どもの権利条約」が採択された。そこには、児童教育者、児童文学者ヤヌシュ・コルチャックの養育理念、"子どもは未来ではなく、ありのままの今を生きる人間であり、大人から対等の人間として敬意を持って接してもらう権利を持っている"が色濃く反映している。
提案国はコルチャックの祖国ポーランドで、ユダヤ人孤児たちのためにワルシャワに立ち上げたドム・シェロトの子どもたち200人と共に、ナチス・ドイツによって虐殺されてから、凡そ半世紀を経てのことであった。その名は、アンジェイ・ワイダ監督の映画『コルチャック先生』で知る人も多いだろう。1878(又は79)年に、裕福なユダヤ人家庭に生まれ、"子どもと魚には物事を決める権利はない"が信条の厳格な父のもとで、臆病な子に育った。しかし、川仕事を糧とする貧しいポーランド人少年と出会い、貴賤や民族の違いに意味のないことを知る。父の突然の死で家は没落するが、家庭教師とユーモアに満ちた文筆で生計を立てながら医学部に進んだ。
訳者は、医師として働きながら社会活動と執筆に汗を流した姿を、アフガンで無念の死を遂げた中村哲医師と重ねる。ひたすらに子どもの自律と人権に心を砕き、窓の向こうには未来があると、死地に連行される貨車の中ですら疑わなかったコルチャックの生き方の原点を、様々なエピソードを通し、柔らかな文章で描いた感動の物語である。(飯澤文夫)
◆1500円・A5判・210頁・石風社・福岡・202105刊・ISBN9784883443017

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『会津のむかしばなし1耶麻地方(喜多方市・猪苗代町・北塩原村・磐梯町・西会津町)』●吉田利昭 イラスト/前田智子・菊地悦子・鶴賀イチ著

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福島県北西部の耶麻地方―喜多方市、猪苗代町、北塩原村、磐梯町、西会津町―に伝わる昔話や伝説を集めた昔話集です。会津文芸クラブ会員の方たちによって、子どもたちを前にした語りを想定したわかりやすい文体で執筆されました。生き生きしたイメージや方言や擬音語の楽しさを味わいつつ読んでいただきたいと思います。例えば『雄国沼のとらんぼう』というお話では、沼の主のドジョウの大きさをこんなふうに説明しています。「どれくらいあるかというと、長さは十尺(約3メートル)、胴っ腹は、ほら、お寺の前に立ってにらんでいる、仁王さまの腕ほどもあるんだと。」子どもたちが馴染んでいる地域の光景を喩えにもってくるなんて、伝説を目の前に蘇らせるのに相応しい、なんとも絶妙な表現ではありませんか。
さて本書はいくつかのパートに別れていますが「耶麻地方の伝説」では、「旅の坊さま」が不思議な力を使って通りかかった村の窮状を救うというお話が多いのに気付かされます。日本中で見られる弘法大師伝説やスサノオ神話のような話がこの地方でも様々なバリエーションを見せながら土着して伝えられているのがわかります。「なるほど話」の章は、起源譚を集めたもの。会津になぜ雪が降るようになった?会津名産「身知らず柿」の始まりは?現在の科学の代わりに昔はすべて物語が物事の始まりを説明してくれていました。「こわい話」では山の妖怪たちや沼の主、化け猫たちが登場。婆さまが魔物に食われて骨になってしまうなどという怖い場面も。他に「おもしろ話」など。(U)
◆1364円・B5判・126頁・歴史春秋社・福島・202107刊・ISBN9784897579887

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『戦国の北奥羽南部氏』●熊谷隆次著

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中世の北奥羽で最大勢力を誇った戦国大名南部氏。16世紀半ばに最盛期を築くのが晴政である。子がなかったかれは一族の田子氏から信直を婿養子に迎える。初代盛岡藩主となる人物である。後に誕生する実子晴継と信直との間で家督争いが勃発したが、これは義父晴政を敵役に仕立てあげた江戸時代の創作だと本書は指摘する。そもそも南部氏は甲斐国南部郷を本貫とする鎌倉御家人で、奥州征伐の功により糠部(青森県東部と岩手県北部)に領地を与えられた。糠部は現在も地名として痕跡のある1〜9の「戸(へ)」に区分。他の行政区域として「門(かど)」や「郷」がある。各地に一族が土着して連合体(一家)を形成するが、それぞれが独立した領主(「戸」の領主)である。室町期、八戸南部氏(根城南部氏)から宗家の座を奪い取った三戸南部氏だったが、一族を束ねることは困難を極めた。
16世紀前半から半ばにかけて「戸」の領主同士の争いが頻発する。永禄年間の糠部争乱では晴政・信直間で権力争いがあったとされるが、根拠となる史料がないことから本書では否定。室町初期以来抗争が続く下国安東氏との鹿角郡合戦や斯波御所との戦を経て晴政は一家を統合することに成功、戦国大名化を成し遂げる。次の信直時代は豊臣政権下。奥羽仕置・九戸一揆により北奥羽の戦国時代は終焉を迎える。最新の研究成果を踏まえた内容に加え平易な図解を多く取り入れた本書は南部氏の全貌を知るには格好の書である。(I)
◆2400円・A5判・235頁・デーリー東北新聞社・青森・202106刊・ISBN9784907034276

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『桑原武夫と「第二芸術」 −青空と瓦礫のころ』●鈴木ひさし著

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仏文学者で評論家の桑原武夫(1904-88)の「第二芸術ー現代俳句について」が雑誌『世界』(岩波書店)に掲載されたのは1946年11 月号だった。この短い評論において桑原武夫は、「私は、日本の明治以来の小説がつまらない理由の一つは、作家の思想的社会的無自覚にあって、そうした安易な創作態度の有力なモデルとして俳諧があるだろうことはすでに書き、また話した」と書き、俳句は、他に職業を有する老人や病人の余技とし、消閑の具とするにふさわしい、もしこれに「芸術」の名を要求するならば「第二芸術」と呼び、他と区別するのがよい、とまで言い切ったのである。さらには、学校教育の場から江戸音曲と同じように俳句もしめだしてもらいたい、などとも言っている。この「第二芸術」論は俳句関係者に大きな衝撃を与え、その衝撃は現在も続いているとされる。
本書では内外の思想家や文学者のテクストが桑原の思想にどのような影響を与えたか、それが「第二芸術」にどのような痕跡をとどめているか、そして、どのような時代背景の中でそれは書かれたのか、その緻密な影響関係、照応関係を丹念に解きほぐして、私たちに明示してくれるのである。例えば桑原が青年期に多大な影響を受けた欧米の思想家に、『幸福論』で知られるアランやイギリスの文芸批評家A・I・リチャーズ等とともにアメリカのプラグマティズムの哲学者ジョン・デューイがいるが、著者は、桑原が戦争中に東北大学の図書館で原書を発見し寒い研究室で耽読したというデューイの『経験としての芸術』に注目する。そしてこの『経験としての芸術』を丹念に読み込んだあと「第二芸術」のなかの次のような俳句批判の一節に目を転ずる。「わかりやすいということが芸術品の価値を決定するものではないが、作品を通して作者の経験が鑑賞者のうちに再生産されるというのでなければ芸術の意味はない。」著者はここで、この桑原のいう「経験」概念に反映しているデューイの思考を読み取るのである。
この他、著者は桑原があちこちで言及している芭蕉や三好達治、鶴見俊輔や高浜虚子のことも「第二芸術」との関連のもとに読みこなす。あるいはまた、雑誌『世界』発刊の経緯、そして「第二芸術」中で言及されている「新しくできた教育調査委員」とは誰であり、何のことか、といったことまで調べ上げている。「第二芸術」に関することならなんでも調べずにはいられないとでも言わんばかりに、話題が枝葉のように広がっていくのである。中には、これはよく知られたことなのかどうかわからないが、どうやら桑原武夫自身も俳句を作る人だったらしいということを示す興味深いエピソードにも触れている。著者がここまで丹念に「第二芸術」について調べ尽くすのは、著者自身俳人であり、おそらく、「第二芸術」発表当時の俳人たちに劣らず、この俳句批判に衝撃を受けたからだろうと推測できる。(T)
◆1500円・四六判・197頁・創風社出版・愛媛・202106刊・ISBN9784860373054

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