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地方・小出版流通センター発行情報誌「アクセス」より

新刊ダイジェスト(2022年04月号発行分)

『終わりなきタルコフスキー』●忍澤勉著

書影

 一九八七年に旧ソ連の映画監督、アンドレイ・タルコフスキーが五四歳の若さでバリで客死してから三五年の歳月が流れた。タルコフスキーは、中編を含めて生涯でわずか八本の作品しか残していない。しかしそのわずかな作品たちはあまりにも濃密であり、今でもわたしたちを魅了し続けてやまない。著者は言う。タルコフスキーは過去の人ではなく未来の人であり続ける、その作品群は古典にはなり得ず、いつまでも新しい問いを発し続けている、と。本書は、そのような問いへの、現時点における著者の答えであると言える。

 「第一章 物語の深淵 隠された意図」で著者はまず、タルコフスキーのデビュー作『ローラーとバイオリン』から遺作の『サクリファイス』にいたる全作品について、物語を順を追って緻密に辿り、細部にまで周到に仕組まれた技巧と意図とを明らかにする。驚くべきは、作品の原作から製作、さらに内容にかかわる事実関係が徹底的に調べられていることである。例えば『惑星ソラリス』の原作、さらにはそのロシア語訳と日本語訳の発表と出版の経緯などの詳細は調べようとしない限り知り得ないものであり、読者にとってこれらの事実関係はタルコフスキー理解の基礎資料になるばかりではなく、多くの発見と再発見をもたらすと思われる。

 「第二章 家族の投影 芸術的ポートレイトの深層」では、その作品群に色濃く反映されているタルコフスキーの家族関係とその歴史を、作品の細部と照応させていく。ここでも読者は、著者によって徹底的に調べられた事実関係の上に作品を見ていくことで、その作品の細部に映し出されたタルコフスキーの現実の家族の物語を見出すことになる。特にその父で詩人だったアルセーニーとタルコフスキーの関係は、その作品理解には欠かせないものである。

 ところでタルコフスキーの映画を初めて見たとき、おそらく多くの人は、その映画の中に変容自在に現れる四大物質、中でも火や水に、いったいどんな意味があるのかと熱烈に知りたくなるに違いない。それらは何かの象徴なのか、あるいはタルコフスキー本人が自己韜晦するようにしばしば言っていたごとく、単に彼の記憶にある思い出の映像に過ぎないのだろうか…頻繁に現れる馬や犬についても同様な思いに駆られる。そのような読者にとって「第三章 モチーフの躍動 物語を紡ぐ事物」が大いに参考になる。ここでは、作品内の事物や動物がどのように描かれているかに重点が置かれているが、なかに、著者独自の解釈も披瀝されている。例えば、『ストーカー』や『ノスタルジア』で不思議な現れ方をする〈犬〉について、著者は異界への案内役と解釈し、また、どの作品にも頻繁に登場する〈唇に傷のある子どもたち〉について、生命の希薄さを表していると思われる、と述べている。そして、意外なところでは例えば『ノスタルジア』の主人公のような、男たちの〈部分白髪〉にもただの偶然ではない意味があるという。

 「第四章 核時代への視線 内包された予言」はここまでと異なり、野心的な作品理解になっている。著者は、東日本大震災と福島第一原発の事故の後の現実を捉えて「新しい核の時代」と呼び、このわたしたちの時代の現実からタルコフスキーの各作品に戦争や核がどう描かれ、またどのように予言的に映し込まれているか、を見ていくのである。

 著者は本書のところどころで実に意外な解釈をしてみせるが、もとよりタルコフスキー自身〈どんな観客にも同意することができる。映画は様々な解釈がなされるように、特別に作られたのだ…〉と言っている。読者が、本書における著者の解釈に反発しても同意しても、それは終わりなき作品世界にさらに一歩踏み込むための契機となる。それが著者の意図するところである。(N)

◆2600円・四六判・438頁・寿郎社・北海道・202201刊・ISBN9784909281401

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『因幡鹿野城主 亀井茲矩 −尼子家再興運動から「琉球守」拝領まで』●砂川博著

書影

 本書は『平家物語』及び『一遍聖絵』などの研究で知られる碩学が戦国史研究に新たに挑んだ意欲作。主人公である亀井茲矩の12歳年長の義兄(義父でもある)は言わずと知れた山中鹿介幸盛(両者の室が姉妹)。尼子氏再興を誓う孤高の武将として歴史ファンから絶大な支持がある。幸盛亡き後その遺志を引き継ぎ再興運動に身を挺す。その活動期間は天正年間の前半の10年。本書はその足跡を追う。

 著者は同時代史料である古文書以外にも家譜や軍記など信憑性に些か問題のある文献をも駆使、「一定の史実のうえに虚構の網が被されている」との見解を踏まえ、慎重かつ大胆に検証していく。天正6年(1578)籠城中の幸盛らに茲矩が脱出を促す上月城潜入談は家譜の編者が茲矩の「才知と胆力・武勇」を称揚するための虚構であると結論づける(第3章)。古典作品に精通する著者ならではの体質なのか、語彙の意味についても吟味を怠らない。

 例えば、史料上の「数輩」は「数人の者」ではなく「多数」を意味する可能性を示唆。「留守居」茲矩の鹿野城から脱走した鹿野氏らの人数から茲矩が受けた衝撃度を推し量る。茲矩の鹿野城留守居任命や鹿野氏の脱走行為から、著者は武者の「遺恨・復仇」の念を羽柴秀吉が利用したという、人間の心理状態にまで踏み込んで大胆に推量する(第6章)。天正10年(1582)「琉球守」(自称?)を秀吉が追認した。茲矩が秀吉にいかに厚遇されていたかの証拠だという。(I)

◆3900円・A5判・252頁・岩田書院・東京・202201刊・ISBN9784866021331

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『ウイグルからの手紙』●KENJIYAGI著

書影

 中国北西部に位置する新疆ウイグル自治区には独自の言語や文化を持つウイグル人が暮らしています。かねてより東方から漢民族の資本や人々が多く流れ込んできて、中国政府による漢民族への同化政策が進んでいましたが、近年それは急激に苛烈さを増し、ウイグル人の強制収容所への連行・強制労働や拷問・強制的な不妊手術が行われ、多くの犠牲者も出ていることが明らかになってきています。本書は在日ウイグル人の人々を中心に編まれ、彼らの歴史に触れながら、そうした弾圧を告発します。ウイグル人への弾圧は上記にとどまらず、日常的な脅迫や監視にも及び、アリババやファーウェイといった企業は監視技術を中国政府に提供しているといわれます。またオーストラリアのシンクタンクが調べた、強制労働者が働かされている工場と関わりを持つ企業の中には、複数の日本の大企業も名を連ねています。私たちの日常の暮らしも必ずしもウイグル人弾圧と無関係ではいられません。

 本書にはウイグル人への弾圧が激化する前1990年前後に撮られた当地の人々の写真も収められるとともに、別刷りのポストカードとしても付属しています。写真を撮ってくれとばかりにポーズをとる男たちや仕事をする少年、あるいは微笑む老人など、そこには当たり前のようにあった日常を生きるウイグルの人々が記録されています。とりわけカメラに向けられた子供たちの笑顔が印象的ですが、彼らの今を思うと心が痛みます。(副隊長)

◆1200円・220mm×160mm判・106頁・SPROUTS VISION・静岡・202201刊・ISBN9784991206405

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『輝ける闇の異端児 アルチュール・ランボー』●井本元義著

書影

 15歳で詩作を始め、若き天才詩人として十代にしてすでにパリ詩壇に熱狂的に迎えられたアルチュール・ランボー。20歳で詩を放棄するまでのわずか数年の間に「酔いどれ船」や「地獄の季節」などを発表し、多大なインパクトを与える。家出と放浪を繰り返し、波乱に満ちた短い生涯を駆け抜けたランボーは今もなお人々を魅了してやまない。著者もそんなランボーに魅せられ、パリ、シャルルビル、ロッシュ村と彼の足跡をたどり、ゆかりのホテルに泊まり、ランボーガイドのようなエッセイを出版しているが、本書はそのランボーシリーズの第2弾及び先に出版されていた小説「ロッシュ村幻影」を没後130年にあたり加筆し修正、新たに掌編を加えたもの。

 ポール・ヴェルレーヌとのいざこざの後、体調も思わしくない中、故郷ロッシュに戻り、数々の出来事を回想する。パリでコミューン兵士になった時、窮地を救ってくれた亡き父フレデリックの面影。右脚を失ってから亡くなるまでの心象風景。さらに“もう一人のランボー”として、もしも生き続けていたらという仮定で物語が展開される。

 また、ランボー好きの“僕”が偶然入った喫茶店で目にしたメニューがきっかけでランボーが住んでいたハラル(エチオピア)を訪れて出会った人々や遭遇する事件も幻想に溢れている。なぜ彼は書くことを止めたのか。彼は詩そのものを生きたのか。問い続ける著者の熱い思いが伝わってくる。(Y)

◆1500円・四六判・221頁・書肆侃侃房・福岡・202201刊・ISBN9784863855045

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『つながる沖縄近現代史 −沖縄のいまを考えるための十五章と二十のコラム』●前田勇樹ほか著

書影

沖縄近現代史については、多くのことが語られている。たが、関心の細分化や専門化が進み、全体を見渡せるような研究は心もとない状況にあるばかりか、最も重要なキーワードの「琉球処分」ですら、琉球王国が廃滅し沖縄県が設置される1870年代から言われてきているにもかかわらず、多様な定義や歴史認識があり、今もって共通理解に到っていないという。

 こうした問題意識の下に、琉球沖縄史、女性史、音楽史、農村社会経済史、沖縄・南島群島、移民、社会学、社会科・平和教育、東アジア国際関係史、欧米現代史、図書館職員、自治体職員、出版編集者など様々な分野の若手研究者と職業人25名が集い、現代の沖縄社会が抱える課題と向き合う、新しいスタイルの入門書として企画された。

欧米列強の東アジア進出という世界史的な動きの中でペリーと結ばれた琉米修好条約を起点に、明治政府、清国との複雑な関係の再編、近代の糖業、戦後の基地、現在の観光と特定産業に偏って依存する経済構造、戦争を挟んで翻弄された二度の日本化、沖縄戦に潜むエスニック・マイノリティへの差別、復帰運動が抱え込む亀裂、開発の時代における生活と意識の変容、沖縄ブーム到来の一方で長く棚上げされてきた基地問題の噴出まで、15のテーマと20のトピカルなコラムからなり、本文上段に適宜フラグ(コメント)を付し、相互に関連付けている。日本復帰から50年、今それが何であったか問われている。(飯澤文夫)

◆2200円・A5判・231頁・ボーダーインク・沖縄・202111 刊・ISBN9784899824169

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