トップページ地方・小出版流通センターサイトマップ

地方・小出版流通センターあなたはこの本を知っていますか

地方・小出版流通センター発行情報誌「アクセス」より

新刊ダイジェスト(2022年05月号発行分)

『<水俣病>事件の発生・拡大は防止できた』●有馬澄雄ほか著

書影

 水俣で<奇病>患者が確認されたのは1956年であるが、すでに50年代前半には障害をもつ児の出生や猫の狂死がみられていた。これを厚生省が公害病に認定し、原因はチッソ水俣工場が酢酸などの原料となるアセトアルデヒドの生産過程で排出するメチル水銀化合物と発表したのは68年になってのことである。ところが、57年から工場附属病院スタッフが社内研究を始め、61 年には汚染源と原因物質をつかんでいたという。しかし、この間も工場は有害廃液を垂れ流し続け、化学工業の原料転換政策を推進する国も動かなかった。

 本書は、社内に残る1000匹もの猫を使った実験記録(通称「ネコ台帳」)を精細に読み解き、どの時点で何が明らかにされ、明らかにされなかったかを突き止めた「チッソ社内研究と細川一−ネコ400号実験まで、そしてその後」と、アセトアルデヒド生産とメチル水銀中毒の化学・技術・医学的分析をおこなった「水俣病発生予防・労働者の水銀中毒防止のための環境化学的研究」の二部からなる。社会問題としての側面がクローズアップされたことで、環境汚染を基礎としたメチル水銀中毒という視点での科学的研究が疎かにされてしまった。過去の調査研究の妥当性の検証や地域住民の健康状況の推移追跡など、メチル水銀からの問い立てをしていかなければ、人類の将来に寄与する対策を提示することはできないと警鐘を鳴らす。書名を<水俣病>と括ったのは、そうした思いをこめてのことだ。(飯澤文夫)

◆2000円・A5判・208頁・弦書房・福岡・202204刊・ISBN9784863292475

《オンライン書店で購入》
※主なショッピングサイトのトップページにリンクを貼っています。リンク先の書店によっては、お取り扱いしていない場合があります。ご了承ください。
hontoHonyaClub.com紀伊國屋WebStoreブックサービスセブンネットショッピングe-hon楽天ブックス文教堂Jbooks丸善&ジュンク堂書店アマゾンTSUTAYAエルパカbooksYahoo!ショッピング

地方・小出版流通センターへの直接注文、お問い合わせはコチラをご覧ください。


『不謹慎な旅 −負の記憶を巡る「ダークツーリズム」』●木村聡著

書影

 旅に出て自分のまだ知らなかったものや人に出会うのは楽しいものです。しかし旅先で出会いはなにも楽しいものばかりではありません。思い出したくないつらい記憶や、暗い歴史が何気ない風景の中にも込められていたりします。本書はそうした「負の記憶」を巡る旅の記録です。例えば足尾銅山。日本の近代化を支えたことで知られていますが、それと同時に鉱毒事件でもその名を知られており、今も鉱毒を弱毒化する作業は続けられています。あるいはハンセン病患者を監禁した「重監房」の残る群馬の栗生楽泉園や隔離の島であった岡山の長島愛生園。そうした場所は軽い気持ちで訪れることがためらわれるような場所であるのかもしれません。しかし必ずしもその土地の人たちがそれを知られたくないと思っているわけでもありません。足尾の世界遺産登録を目指す人物は「光と影の両方を後世に伝える」と語り、ハンセン病経験の語り部は「法では解放されたけれど、差別は残っている。知ってもらいたい。」と言います。興味本位で見に行くというのは、本書のタイトル通り「不謹慎」なことであるのかもしれません。

 しかし「不謹慎」だからと言って敬して遠ざけてしまっては、いずれ人々の辛い記憶や苦しい思いもなかったことにされてしまいます。それでもそういう土地に実際に足を運ぶのは気が重いかもしれません。まずは本書を開いて著者の「負の記憶」を巡る旅の追体験から始めてみるのはいかがでしょう。(副隊長)

◆2000円・A5判・258頁・弦書房・福岡・202202刊・ISBN978486329241 3

《オンライン書店で購入》
※主なショッピングサイトのトップページにリンクを貼っています。リンク先の書店によっては、お取り扱いしていない場合があります。ご了承ください。
hontoHonyaClub.com紀伊國屋WebStoreブックサービスセブンネットショッピングe-hon楽天ブックス文教堂Jbooks丸善&ジュンク堂書店アマゾンTSUTAYAエルパカbooksYahoo!ショッピング

地方・小出版流通センターへの直接注文、お問い合わせはコチラをご覧ください。


『霞堤の研究 −豊川流域に生きている伝統的治水システム』●藤田佳久著

書影

 豊川は、愛知県北設楽郡設楽町の段戸山に源を発し、山間渓谷を経て新城市長篠地で宇連川と合流し、豊橋平野を出て、豊川市で豊川放水路を分派し、豊橋市を流れ、三河湾に注ぐ、延長約77km、流域面積約724km2の一級河川である。

 流域内の年平均降水量は2000mmほどで、上流で降った雨は、一気に下流に流れ出し、中下流で大きく蛇行していることからたびたび洪水に見舞われている。このため豊川の治水事業として、江戸時代に吉田城等を守るために霞堤が築かれ、昭和30年代まで9箇所(東上・金沢・加茂・下条・牛川・二葉・三上・当古・大村)が機能していた。霞堤とは、堤防が至る所で不連続となっており、ここから洪水時には水があふれ、霞堤地区内・遊水地にためられ、洪水が終わるとまた水は川に戻るというシステムである。昭和40年に完成した豊川放水路により洪水は緩和され、その後豊川の右岸側の5つの霞堤は締め切られた。

 現在は、左岸側の牛川・下条・加茂・金沢の4霞堤が残っている。本書は、豊川流域における霞堤について、その霞堤の成立条件とその展開、近世の豊川下流域における霞堤配置の復元、水害と治水運動、豊川放水路建設用地問題、豊川下流域の不連続堤地帯における集落立地と住民の水害環境意識に関して、詳論する。この豊川流域霞堤に関して、よくまとめられており、他に例を見ない画期的書籍であるといえる。(古賀河川図書館・古賀邦雄)

◆2200円・B5判・298頁・あるむ・愛知・202202刊・ISBN9784863331785

《オンライン書店で購入》
※主なショッピングサイトのトップページにリンクを貼っています。リンク先の書店によっては、お取り扱いしていない場合があります。ご了承ください。
hontoHonyaClub.com紀伊國屋WebStoreブックサービスセブンネットショッピングe-hon楽天ブックス文教堂Jbooks丸善&ジュンク堂書店アマゾンTSUTAYAエルパカbooksYahoo!ショッピング

地方・小出版流通センターへの直接注文、お問い合わせはコチラをご覧ください。


『地図から消えた村 −琵琶湖源流七集落の記憶と記録』●吉田一郎著

書影

 「地図から消えた村」(いわゆる「廃村」)のひとつの側面として、「時代が切り取られて残る」ことがある。たとえば離村が行われた頃の集落の風景や住民の方々が写る写真を見ていると、「そんな時代もあったなあ」と頭に思い浮かべることができる。

 この本で取り上げられた滋賀県北部(長浜市旧余呉(よご)町)の7つの廃村は、昭和44年〜46年、高度経済成長によるエネルギー革命に端を発して離村した3集落(奥川並(おくこうなみ)、尾羽梨(おばなし)、針川(はりかわ))と、平成7年、丹生(にう)ダム建設予定地になったことを受けて離村した4集落(小原(おはら)、田戸(たど)、鷲見(わしみ)、半明(はんみょう))に分かれる。

 その後、ダム建設が中断されため、平成7年の離村から27年経った今でも現地を訪ねることができる。しかし、集落の匂いが年を重ねるごとに薄くなってきていることは、川沿いにあった鷲見集落・集落跡を定点観測した3つの写真(昭和50年、平成10年、令和3年)を見比べると、火を見るよりも明らかだ。そのことを著者は「長い歴史を刻んだとは言え、所詮人間の営みは大自然の借り物の上にあった」と記している。

 「離村者たちの今、昔」と銘打った、住民の方々の往時と今の姿を比較したいくつかの写真の中には、離村時6才の女の子が、33才の三児の母になった写真が見られた。多くの住民の方々の今昔の姿は、遠いことのように思える集落の姿と今とをつなげる働きがあるように感じた。(HEYANEKO)

◆3500円・B5判・213頁・サンライズ出版・滋賀・202203刊・ISBN9784883257553

《オンライン書店で購入》
※主なショッピングサイトのトップページにリンクを貼っています。リンク先の書店によっては、お取り扱いしていない場合があります。ご了承ください。
hontoHonyaClub.com紀伊國屋WebStoreブックサービスセブンネットショッピングe-hon楽天ブックス文教堂Jbooks丸善&ジュンク堂書店アマゾンTSUTAYAエルパカbooksYahoo!ショッピング

地方・小出版流通センターへの直接注文、お問い合わせはコチラをご覧ください。


『老人ホームで死ぬほどモテたい −新鋭短歌シリーズ59』●上坂あゆ美著

書影

 “短歌はすごい。三十一文字を打ち込むだけだから、お金はかからないし、スマホがあれば重たいキャンバスもいらない”作者はあとがきでこう語る。

 キャンバスとあるのは美大に進学したけれど、絵画、デザインなど、いずれの制作に没頭出来ず、絶望を味わったからこそ出て来た言葉だろう。”ばあちゃんの骨のつまみ方燃やし方 YouTuberに教えてもらう”冒頭の歌は祖母の死を物語り、”母は鳥 姉には獅子と羽根がありわたしは刺青がないという刺青”で母と姉がいることがわかる。

 さらに三首の歌の前に記された小文で人生の転換点が示される。15歳で親が離婚。父はフィリピンに移住し、現地の女性と再婚する。年月日と時刻のみの表示は、父の急死を知らせてきた姉からの着信日時。歌で切り取った日常が日記のように浮かび上がる。”弔いの海物語 マニラにも沼津にも海は海としてある”パチンコ好きだった父を作者なりのやり方で追悼している。故郷静岡から上京して東京で送る学生生活や就職活動、そして恋の歌や生きざままで、大らかでパンチの効いた歌が並ぶ。

合理性を重視しすぎたり、はたまた根性論を強要してくる別人格がいくつか存在するという作者は短歌を作る時、そんな人格や世界と闘いながら老いてゆく自分を美しいと感じる。いつか老人ホームに入る頃にはわたしの中の全ての私から称賛されたいと願っている。これが謎めいたタイトルの由来。意欲溢れる新鋭歌集。(Y)

◆1700円・四六判・141頁・書肆侃侃房・福岡・202202刊・ISBN9784863855069

《オンライン書店で購入》
※主なショッピングサイトのトップページにリンクを貼っています。リンク先の書店によっては、お取り扱いしていない場合があります。ご了承ください。
hontoHonyaClub.com紀伊國屋WebStoreブックサービスセブンネットショッピングe-hon楽天ブックス文教堂Jbooks丸善&ジュンク堂書店アマゾンTSUTAYAエルパカbooksYahoo!ショッピング

地方・小出版流通センターへの直接注文、お問い合わせはコチラをご覧ください。


『彼らと僕ら。 −妖精紳士録』●高畑吉男著

書影

 妖精の花形エルフや水の精ウンディーネ、首のない騎士デュラハンなど、アイルランドを中心とした神話や民間伝承に見られる妖精たちの百科事典でありまた妖精譚の宝庫といった趣のある本書であるが、著者がそんな〈妖精郷〉に迷い込んだきっかけは、学生時代に明け暮れていたというテーブルトークRPGだという。卓を囲んで会話しながら遊ぶアナログなロールプレイングゲームである。そのようなゲームにつくフレーバーテキスト、すなわちスキルやキャラクターの雰囲気作りのためのちょっとしたバックストーリーを読むのが好きで、その話の由来を調べるのに神話や伝説の本を開くのが常で、そこで出会った妖精譚や民話を知る度に心を踊らせたという。だからと言うべきか、本書は、中心となる妖精物語の脚注や解説にゲームをはじめとしてマンガ、ライトノベル、ファンタジー小説のタイトルがふんだんに登場する。

 トールキンの『指輪物語』やルイス『ナルニア国物語』といったファンタジーの古典はもとより、ダンジョンズ&ドラゴンズという世界初のテーブルトークRPG、水野良著の王道ファンタジー小説『ロードス島戦記』や伏瀬著のライトノベル『転生したらスライムだった件』等々。逆にいうなら、これらゲームやマンガ、ライトノベルといったジャンルはふんだんに神話や伝説から素材を吸収し、現代に蘇らせているということが言えそうである。本書を通して読者は再び、その素材となった妖精たちの故郷へと案内されることになるのである。(N)

◆2000円・B6判・155頁・銀河企画・東京・202203刊・ISBN9784909793102

《オンライン書店で購入》
※主なショッピングサイトのトップページにリンクを貼っています。リンク先の書店によっては、お取り扱いしていない場合があります。ご了承ください。
hontoHonyaClub.com紀伊國屋WebStoreブックサービスセブンネットショッピングe-hon楽天ブックス文教堂Jbooks丸善&ジュンク堂書店アマゾンTSUTAYAエルパカbooksYahoo!ショッピング

地方・小出版流通センターへの直接注文、お問い合わせはコチラをご覧ください。


baner

株式会社 地方・小出版流通センター
郵便番号162-0836 東京都新宿区南町20
TEL.03-3260-0355 FAX.03-3235-6182

電子メールでのお問い合わせは、chihosho●mxj.mesh.ne.jp まで。

*お手数ですが、●の部分を半角のアットマーク「@」に書き換えてご送信ください。スパムメール対策のためです。すいませんがご了解ください。

当ページに掲載されている記事・書誌データ・写真の無断転載を禁じます。


トップページ地方・小出版流通センターサイトマップ