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地方・小出版流通センター発行情報誌「アクセス」より

新刊ダイジェスト(2022年09月号発行分)

『小さきものの近代1』●渡辺京二著

書影

 後期江戸文明を、当時来日した外国人の視点から描いた代表作『逝きし世の面影』をはじめ『江戸という幻景』『黒船前夜』『バテレンの世紀』といった歴史物語を書いてきた著者であるが、最後は明治維新について書こうと、四十年に渡って文献を蒐め続けた、と言う。ついにその念願叶い、二〇二一年一月から熊本日日新聞にこの『小さきものの近代』連載が始まった。その開始時すでに御歳九十。執筆は意外なほど迅速に進んで…と言う著者のその健筆ぶりに驚くが、いよいよここに、その単行本化が始まったのである。

 本書の趣向については第一章「緊急避難」に詳しい。維新革命とは、その時代、遠慮ない弱肉強食だった世界に日本が対峙しなければならなかったゆえの緊急避難的措置だったのであり、徳川社会が劣悪であるが故に、その改革のために起こったのではない。虎狼の群れに等しい国際社会に参入するため否応なく強力な国家機構を上から創り上げなければならなかったのである。そこにはより良き個人と社会のあり方を求めるような視点はなく、ひとりひとりの「小さきもの」の幸・不幸など問題とはならなかった。著者はこの、国家次元のストーリーの底流で支配された人々、その「小さきもの」たちの物語をここに描こうというのである。

 第二章以降、さまざまな視点から、そのような「小さきもの」たちに焦点が当てられていくが、まず著者は、明治維新が打倒した徳川社会とはいかなる実相だったのかを描く。第二章「徳川社会」は、著者の代表作『逝きし世の面影』を彷彿とさせる内容で、幕末期に来日した外国人の視点によって描かれたその社会の「豊かさ」が、まるで幻のように立ち昇るのである。例えば、長崎出島蘭館長だったG・F・メイランの著書から次のような一節が引かれている。「おそらく世界のどこにも、これ以上安心して眠りにつくことのできる国はなく、そして全体的に人々と品物の安全が保証されているところはないことを、素直に承認せねばならぬ…全アジアの民族のうちで、たしかに日本国民は、教育の最高段階にあるとしなければならない…東洋の国民のうちで最大の進歩を、美術工芸と産業のあらゆる部門で、また技術学問のあらゆる分野で遂げた」。徳川社会が文化的に爛熟した社会であったことは誰の目にも明らかであり、しかも肝心なのは、そのような文化的享楽が、一部の特権階級的上流社会に限られるのではなく、広く底辺の大衆にまで及んだことである、と著者はいう。その時代の苦難の象徴とされた年貢や身分制、間引きに百姓一揆も著者の、具体的な資料に基づく見方からはこれまでとは違う様相を呈する。

 第三章「自覚の底流」では、そのような徳川社会のもとでの農民たちの自立した意識に照明が当てられる。以降、ジョン万次郎ばかりではない、名もなき漂流民たちの生涯が語られ、知られざる幕臣たちや戊辰戦争の敗者たちの苦難の顛末が取り上げられる。第八章「女の力」では幕末維新期に生きた多くの妾、芸者といった女性たちの生涯を追いかけ、第九章「黙阿彌と円朝」では、幕末・明治期の庶民感情を語るに欠かせぬ芝居や講談、落語について、中でも黙阿彌と円朝の生涯と作品に言及する。

 著者はこの「小さきもの」たちの物語の終点を大逆事件あたりにしようと考えているようだ。「関東大震災あたりまでと考えたが、とてもそれまで生きてはいまい」などと言うが、その先のどこまでも書き続けていただきたいと思う。(N)

◆3000円・A5判・303頁・弦書房・福岡・202207刊・ISBN9784863292482

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『長崎橋物語 −石橋から戦災復興橋まで』●岡林隆敏著

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 長崎の街は西に長崎湾を望み背後に山が迫る平地の少ない街です。流れる川も大河ではない短いものが多く、そこに掛かる橋にも巨大なものはありません。それでも長崎の市街地には日本初の石橋となった眼鏡橋のほかにも、多くの魅力的で歴史のある橋が残っています。そんな長崎の街に掛かる橋たちの歴史をたどったのが本書です。

 眼鏡橋をはじめとした石橋はモダンな印象を受けるアーチ橋ですが、こうした石橋はすでに江戸時代に築かれていたというから驚きです。木造だったため今は残っていませんが、廓橋という屋根の付いた趣のある橋もありました。そしてその後明治の時代を迎え、より長持ちする丈夫な橋を目指し、木鉄混合橋の時代を経て鉄橋・鉄筋コンクリート今日の時代へと移っていきます。戦時下では原爆により破壊された橋もありましたし、耐えて今も残る橋もあります。そして戦後の復興の中でも新たな橋がかけられました。そうしたなかでも特筆すべきなのが鉄製の鉄橋(くろがねばし)と鉄筋コンクリート製の本河内新堤防放水路橋梁が、それぞれの材料を用いた日本最初の橋となったことです。まさに長崎は当時の土木技術の先頭を行く都市でした。また同じ材料でも様々な意匠で橋の個性が表現されていたことが、本書に収められた貴重な写真から見て取ることが出来ます。著者の言う長崎市の橋の歴史は日本の橋の歴史の縮図であるということも本書を読めば肯けるところでしょう。(副隊長)

◆2000円・A5判・186頁・弦書房・福岡・202206刊・ISBN9784863292529

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『誰もいない文学館』●西村賢太著

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 今年2月に54歳の若さで急逝した著者。その訃報に衝撃を受けた人も多いだろう。著者が大正時代の私小説で凋落の果てに公園のベンチで狂凍死を遂げた藤澤C造に深く心酔していたのは有名な話で、C造の月命日には石川県七尾市にある西光寺に墓参を欠かさず、ついにはC造の墓の隣に自身の生前墓を建てるほどの傾倒ぶりだった。そして今、著者はその墓の中で眠っている。

 そんな著者が藤澤C造を始めとして語り尽くす作家たち。誰もが知る面々ではないとは言え、確かに私小説書き西村賢太の人生を変え、支えてきた幻の作家の人生が息づいている。最初は田中英光にのめり込んでいたものの、29歳の時、酒に酔って人を殴り、留置場に入ったことから人生の敗北を味わい、ふいに以前読んでいた藤澤C造をたまらなく読み返したくなり、そこから心酔。稀覯本を入手するなどして、間違いなく人生を変えたというC造の代表作『根津権現裏』に関しては3回にわたって取り上げている。文芸年鑑の類にも収載されたことのない、全てが幻といった倉田啓明、その名を冠した「島清恋愛文学賞」が創設され、若干メジャー感はあるものの、天国から地獄へ堕ちるような生涯が興味深い島田清次郎など、一般の大正文学史に一切頼らぬ相関図が出来上がったと著者も自負している。C造の?歿後弟子?を名乗り、思う存分浸り切った著者が案内してくれた文学館。たとえ誰もいなくても、じっくりと堪能したいものだ。(Y)

◆1800円・四六判・173頁・本の雑誌社・東京・202206刊・ISBN9784860114718

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『秋田・道路元標&旧町村抄』●佐藤晃之輔著

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 道路元標は、大正8年施行の旧道路法によって規定されたもので、当時全国に約12000あった市町村すべてに設置が求められた。市町村の中心部に設置することにより、道の起点、終点を明確にすることなどを目的としていたが、昭和27年に新たな道路法が施行され、使命を終えている。

 この本では、秋田県内28の道路元標の写真、位置図をカラーで掲載し、225の市町村(おおむね昭和29年現在)について、そのあらまし、役場所在地、人口の変化などを各1 ページでまとめている。道路元標の多くは放置された状態になっており、著者は文化遺産として、その保存を提唱している。

 著者が道路元標を知ったのは平成23年のこと。3つ目を見たときまでは特に興味はなかったが、4つ目を見つけたときに「調べてみたらもっとあるのでは…」と、強い興味が湧いたという。これを昭和の大合併以前の市町村と結びつけ、24の新たな発見にたどりついたというから、ひと通り洗い出すことの価値が感じられる。ひと通り洗い出すことの価値は、広く共通する事柄だが、情報が手軽に入手できる昨今、根気がいる作業は敬遠されがちになっているのではないだろうか。

 この本を読むと、興味の対象を見つけ、それを掘り下げることの楽しさがよく伝わってくる。そして、追いかけてきたものが形になるとき、その喜びは何事にも代えがたい。(HEYANEKO)

◆1500円・四六判・279頁・秋田文化出版・秋田・202207刊・ISBN9784870226043

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『復帰50年 沖縄を読む −沖縄世はどこへ』●東アジア共同体研究所琉球・沖縄センター編著

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 沖縄の復帰50年にちなみ、復帰後に刊行された歴史、政治、社会、文化、教育、子ども、まちづくり、民俗、工芸、文学など様々な分野の50冊を、沖縄に関心を寄せる50人の執筆者が、自由に評したブックレビーである。

 作家の大城貞俊は、八重洋一郎の詩集『日毒』のタイトルが日本を意味することに衝撃を受け、沖縄文学の特筆の一つは土地の記憶を紡ぎだすところにあり、文学の言葉は生活の言葉によって命を吹き込まれると述べる。市場の古本屋ウララ店主の宇田智子は、大正期に沖縄から東京に出奔して波瀾の後に幼馴染の金城朝永と結婚し、金城の沖縄研究を支え、戦後は沖縄問題に関わった金城芳子の自伝『なはをんな一代記』をユーモラスに紹介する。

 沖縄対外問題研究会代表の我部政明は、新崎盛暉の『日本にとって沖縄とは何か』で、新崎が生涯を賭した沖縄研究の原点は、高校生時代に沖縄が日本政権下から切り離されたことを知ろうとしない日本人への怒りと悲しみにあるとし、新崎が指摘した対米従属的日米関係の矛盾を沖縄にしわ寄せする構図が変わらない今、沖縄にとって日本とは何かと問いかける。

 東アジア共同体研究所理事高野孟の前書き「復帰50年、これでよかったのか」では、そもそも「復帰」なのか「返還」なのか、沖縄にとって祖国とは、自立とはと根源的な問題提起がされる。50年経っても抱える課題は未だ根深く、新しいことを感じる。(飯澤文夫)

◆1400円・A5判・157頁・ボーダーインク・沖縄・202206刊・ISBN9784899824282

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