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地方・小出版流通センター発行情報誌「アクセス」より

新刊ダイジェスト(2023年01月号発行分)

『連赤に問う』●上毛新聞社編

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 日本中を震撼させた連合赤軍事件からもう半世紀になる。半世紀という時間は長く、事件は風化し、連合赤軍という名すら知らない人たちも多いことだろう。連合赤軍は全共闘運動が行き詰りつつあった1971 年12月、先鋭化した共産主義者同盟赤軍派と日本共産党革命左派神奈川県委員会が、群馬県榛名山のアジトで組織合同して結成されたものだ。そのアジトで構成員12人を集団リンチの末に殺害し、凍り付いた山中に埋める凄惨な事件が起きた。それより前、革命左派は同志2名を殺害している。翌2月、最高幹部は妙義山で逮捕され、逃れた残党は長野県軽井沢の山荘に管理人の妻を人質に取って籠城した。人質は無事解放され、構成員全員が逮捕されて連合赤軍は壊滅するが、機動隊員2名と民間人1 名が犠牲になった。それだけでは終わらず。5年後、赤軍派の海外組である日本赤軍がダッカ日航機ハイジャック事件を起こし、元構成員らの釈放を要求した。

 本書は地元群馬県の『上毛新聞』が、この事件を戦後史のどこに位置づけるべきか、どう捉えたらよいのかとの問題意識を出発点に、元構成員、構成員と関りのあった学生運動家、事件を裁いた判事と弁護士、警察官、山狩りに参加した土地の人々や発掘された遺体を仮安置した寺の住職、ハイジャック犯の要求受入れの決断をした首相遺族など同時代の関係者、また、文学者、心理学者、宗教家、環境問題に関心を持つ群馬県内の高校生らに取材し、2021 年11 月から22年5月まで多角的な視点で連載した記事を基にしたものである。取材・執筆・撮影に当たった10人の記者・カメラマンは、いずれも事件後世代である。下部構成員5人を審理した前橋地裁裁判長の水野正男は、イデオロギーと暴力を当然とする人間性の解体の関係について思索し続け、出所後の構成員とも交流して、「自覚の抑圧を失ってその肉体的本能のみが、主導する自己実現として犯罪を犯し、人を殺すのである」との結論に至る。心理学者の河合隼雄は、そうした状況が生まれたのは、当時の日本社会に、母親が子が膝元から勝手に離れることを許さない、いわば「母性の原理」が強く働いていたためと分析する。

 一方、刑務所の独房で元幹部の死刑囚と隣り合わせた作家の佐藤優は、ハイジャック事件での釈放を拒否して獄中生活を送る元幹部の人間性を伝えるとともに、新左翼運動の時代背景と、路線の違う組織合流が破局への導線になったことを述べる。ジャーナリストの大谷昭宏は、連合赤軍が方法論を取り違えて間違った結果を生み、市民社会で育つはずの社会変革を求める芽を摘んでしまったと厳しく批判し、その後に起きたオウム真理教とロシアの強権化に触れ、メディアが真実をしっかりと伝えず、彼らを忘れたら、風化して愚かな風評が入り込み、また同じ過ちが起きるかもしれない、「ただし、社会を変革させることは禁忌ではない」と結ぶ。これが本書の意義である。(飯澤文夫)

◆1500円・四六判・192頁・上毛新聞社・群馬・202209刊・ISBN9784863523173

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『俳句は国境を越えて −One-Poem One-World』●西川盛雄著

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 日本人にとって身近な詩型である俳句は、今や国境を越えてHAIKUとして世界中に拡がり、地球規模で人々を惹きつけて止まないものになっている。英語学や言語学を専門とし、大学で留学生に俳句を教えることもあるという著者は国際俳句交流協会の会員でもあり、日々俳句とHAIKUに接している。

 本書では、そんな俳句とHAIKUの狭間にあって感じ考えられたことが様々な視点から語られている。例えば、海外のHAIKU作品を見る時、それぞれの地域における文化、歴史、風土からくる独特な季節感がすぐに目に止まる。それぞれの国にはそれぞれの歳時記があるのである。そして北欧のオーロラや白夜も、砂漠の乾燥も広大なサヴァンナもHAIKUの素材としてふさわしいものとなる。また自然現象ばかりではなくハロウィンやイースター、聖人の日など季節の節目となる祭祀や儀式も重要な西洋の歳時記の一コマである。さらに、外国語のHAIKUにおいては「人情」つまり私情をテーマとする傾向があり、対して日本の俳句は、私情が抑制され自然に託した写生あるいは、漱石が『草枕』で言ったところの「非人情」をテーマとしてきたとも指摘されている。そして随所で西洋の俳句受容の歴史について言及されているのも興味深い。欧米人としてはじめて日本の俳句の魅力を広く西洋に紹介したのは、ラフカディオ・ハーン(小泉八雲)であった。またかつて日本の浮世絵がモネやドガなどフランス印象派の画家たちに大きな影響を与えたのと軌を一にするように、文芸の分野においては二十世紀初頭、イマジストと称される新傾向の詩人たちに、この一筆書きのような短詩が大きな衝撃を与えた。西洋の伝統としてあった説明的な長い物語風の詩に対して、「写生」と称して一瞬のイメージの鮮烈さを詩の源泉とする俳句に彼らは大いに驚き、俳句的短詩の創造的試みがなされた。

 さらには第二次大戦後のアメリカのビート派詩人たちも忘れることができない。日本の伝統である俳句が、西洋の伝統的な詩文の世界へのカウンターカルチャーとなるような様相を呈したのである。他にも、アメリカの著名な黒人作家リチャード・ライトやドイツ人宣教師W・グンデルト、アメリカ俳句の父と言われるハロルド・C・ブランデンなどの名前が上がっている。本書第二章では、熊本時代の夏目漱石が残した多くの句の英語訳が試みられている。よく知られた〈菫程小さき人に生れたし〉は、〈I wish to get begotten / like a man as small as / a violet〉といった具合になる。漱石句の愛好家には見逃せないところである。第三章は「時の記憶」と題され、著者自身の俳句作品とその英語訳が併記されている。〈セーターに着替えて妻の退院す〉(my wife / changing into a sweater / is to leave the hospital)など全32句。(T)

◆2100円・A5判・234頁・弦書房・福岡・202211 刊・ISBN9784863292604

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『カレル・チャペックの見たイギリス』●カレル・チャペック著/ 栗栖茜訳/村上春樹解説

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 “イギリスは二つの矛盾する論理が共存できる二律背反の国なのです。恐るべき近代産業を発展させるとともに、昔からずっと続いてきたもともとの牧歌的生活も失うことなく保ったのです”。イギリスという国をこんな風に表現するカレル・チャペック。第一次世界大戦と第二次世界大戦の間の約20年、問題作を次々に発表し、精力的に活動したチェコの作家で、戯曲「ロボット」は世界各国で上演され、一躍有名になったが、イギリスはその中でもチェコ以外で上演した最初の国だった。そんな縁もあってか、1924年にロンドンで開かれた国際ペンクラブの大会に招かれ、同時期に開催されていた世界博覧会の取材も兼ねて約2か月間イギリスに滞在したチャペック。イングランドからスコットランド、ウェールズを巡り、本書はその旅行記であるが、単なる観光旅行ではなく、冒頭に示したようにイギリスという社会を見る旅をしている。

 イギリスの料理を酷評したり、イギリス人は沈黙を重要視するなど、ややシニカルな眼差しを向けつつ、スコットランドでは羊、馬、牛の群れのスケッチに没頭。建造物や人物、自然も含めた全編にわたるチャペック自らのスケッチも味わい深い。解説は村上春樹。彼自身、数多くの紀行文を出しているが、チャペックと同じ視点が感じられ、「とくになんでもない」些細な物事に温かい目を向けるのがチャペック持ち味としている。独創性と普遍性があるイギリスが好きなチャペックの独自のイギリス論が展開されている。(Y)

◆2000円・四六判・219頁・海山社・東京・202210刊・ISBN9784904153130

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『水と生きる地域の力 琵琶湖・太湖の比較から』●楊平・嘉田由紀子著

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 1972年発行の『成長の限界』は、世界の人口の増大し、世界の経済が成長し続けると、環境にどのように影響をもたらすかを追求した。現在では高度経済成長後、人間が石油や核等の生産不可能な資源に依存する工業化や産業化によって、環境も景観も大きく変化。昭和30年代まで、琵琶湖辺の水田農業は、化学肥料や近代農業を使わず、湖・河川・森林から栄養分を取り入れた、自然循環型の農業であり、水に生きる地域の力があったという。

 このような観点から日本一の湖琵琶湖と中国五大湖の一つ太湖に関する水の生活・生業・地域コミュニティの変化を追求する。「第一部 水と生活−関わりの多様性」では〈水辺遊びの意味と環境適応〉〈守りを貫く地域コミュニティ「生水の郷委員会」の挑戦〉、「第二部 水と生業−水陸移行帯における多重性」では〈コモンズ環境としての水辺〉〈農業にみる水とのせめぎ合い〉、「第三部 社会基盤を支える地域コミュニティ」では〈若者を育てる地域の力〉〈生活を支える基礎的な組織〉、「第四部 東アジアの中の魚米の郷−琵琶湖から太湖へ」では〈水と生業・資源の循環からみる生業複合〉〈地球規模での気候危機にコミュニティ主義は有効か?〉といった項目を掲げ論ずる。

 琵琶湖と太湖は、地球規模での環境破壊と気候変動危機問題について、地域コミュニティで重ねてきた地域再生力、即ちレジリエンスの力を強化することが必要だと強調する。(古賀邦雄 古賀河川図書館)

◆2800円・A5判・262頁・サンライズ出版・滋賀・202211刊・ISBN9784883257775

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『シベリア鉄道 三度目の正直』●中野吉宏著

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 シベリア鉄道の旅行記は色々ありますが、本書の特徴は著者にとってこの2016年のシベリア鉄道旅行は1982年・2000年に次ぐ三度目の旅行であること。そしてもうひとつはかつての二回の旅先で出会った異国の人々との交流を今も深め続けていることです。

 というわけで本書に収められたこのシベリア旅行記では、以前の旅と今との違いや、懐かしい人たちとの再会などが中心に描かれています。ウランバートルの寺院では、そこにいた僧に2000年に撮った写真を見せたら、写っている小僧さんがまさにその僧その人なのでした。イルクーツクでは前回訪ねた村を再訪します。当時出会った人たちとの再会はかないませんでしたが、あちこち案内してくれた気のいいドライバーとの新たな出会いがありました。車内でも一等車の個室で酒を呑みまくる(昼までにウオッカ2本?)男に酒盛りに付き合わされたりと様々な出会いがありました。長距離列車の旅で同じ車両に乗り合わせた人たち、そして乗務員の人たちのおおらかな雰囲気が伝わってきます。そして終点の先サンクトペテルブルグでは、ただの観光かと思われたこの旅行のもうひとつの目的が明らかにされます。それも2000年の旅での出会いがもたらしたものでした。それが何かは本書の手に取ってのお楽しみです。今はウクライナとの戦争に明け暮れるロシアですが、この本の中に出てくるような気のいい人たちの国でもあるということも感じてもらえればと思います。(副隊長)

◆2000円・A5判・191頁・17出版・兵庫・202212刊・ISBN9784990064570

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