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地方・小出版流通センター発行情報誌「アクセス」より

新刊ダイジェスト(2023年04月号発行分)

『江戸という幻景 新装版』●渡辺京二 著

書影

 本書は、昨年12月25日に92歳で亡くなった近代思想史家の渡辺京二氏が、2004年に刊行した『江戸という幻景』の新装版となる。新刊というわけではないが、改めてこの機会に読み返してみたい。巻末には新たに三浦小太郎氏の解説が付されている。三浦氏はその解説で、渡辺さんの代表作【逝きし世の面影】との対比で本書『江戸という幻景』の位置についてうまくまとめているので引用させていただきたい。「渡辺京二の代表作とされる『逝きし世の面影』と、本書は同じく江戸時代を扱っている。しかし、『面影』は、幕末から明治初期に日本を訪れた西洋人の記録をもとに江戸時代について考察したものであり、そこには日本人から確実にかつての文明が失われていくことへの愛惜感がにじみ出ている。

 本書『江戸という幻景』は、江戸時代に書かれた文献、特に随筆や紀行文を中心に構成されているため、より直截的に江戸時代の精神世界が読者に伝わり、確かにある幸福な時代があったのだという感銘を与えてくれる」。例えば、『逝きし世の面影』で、イザベラ・バードが日本の行く先々で、ごく当たり前のように親切なもてなしを受けるのに驚き、「私は(日本には)親切な人々がどこにでもいることについて語りたい」とその著書で書いていることが紹介されている。翻ってこちらの『江戸という幻景』の第三章「真情と情愛」では、勝海舟の父親である勝小吉の回顧録から、小吉少年が十四歳で家出した時の道中の様子が取り上げられている。金もなくなり時に病も得た行く先々で、この放浪児はよく声をかけられ、またよく情にあずかり、当たり前のように食と宿を供され、金銭さえ与えられることもあった。見知らぬその家の子のようにしてもらった、という記述もある。いずれもかつてこの国のどこでも見られた、渡辺氏が言うところの「真情」が当たり前のように通いあう「ある幸福な時代」の光景が鮮やかに切り取られているのがわかる。が、『逝きし世の面影』のイザベラ・バードは外部からの、本書の勝小吉少年は内部からの視点であるという相違が見て取れる、ということである。

 ところで本書はどの章から読んでもよいと思う。どこを通っていっても読者はその「真情」が通い合う不思議と豊かな世界に至ることができる。解説の三浦氏が推しているのは第九章「隠された豊かさ」である。この章で渡辺氏が拾っているのは、菅江真澄によって描写された下北半島や東北地方の光景だ。真澄はその土地の暮らしが外見上貧しいものであってもそれをただちに悲惨と解さず、むしろそのうちに含まれる豊かさや充溢を読み取ろうとする。第七章「風雅のなかの日常」では、どこぞに名木ありと聞けばその庭を訪ね見ずにおれない、当時の人々のささやかな風雅の心が描かれる。第八章「旅ゆけば」を読むと、江戸期の思いもよらぬ豊かな旅事情が知れる。第十章「ぬしが殿様じゃったや」は、この章タイトルをみるだけで何やら豊かな感情が込み上げてくるのを感じないだろうか。本書を改めて読み終えてみると渡辺氏が第一章「振り返ることの意味」で述べている言葉が、実感を持って迫ってくるのを感ずる。「…私はただ、近代が何を滅ぼして成立したのか、その代償の大きさを思ったのである…江戸という時代は、近代への根本的な内省をうながさずにはおかぬ幻景として、私のまなうらでほのかに揺れている」。(N)

◆1800円・四六判・263頁・弦書房・福岡・202303刊・ISBN9784863292642

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『植原悦二郎の国民主権論─日本国憲法の源泉』●高坂邦彦 著

書影

 明治10年に長野県安曇野で生まれた植原悦二郎は、苦学してロンドン大学で博士号を取得し、大正デモクラシーの揺籃期に、『通俗立憲代議政体論』を上梓した。明治憲法をイギリス政治学の視点から、「国民主権」「象徴天皇」「責任内閣制」と解釈し、リベラルで急進的な言論は、ドイツ政治学で権威化されていた学界、政界に衝撃を与えた。犬養毅に懇望されて大正6年に国会議員になり、戦中は東条首相を批判して翼賛選挙に落選するが、戦後、日本自由党の結成に参画し、日本国憲法発布に当たっては国務大臣として名を連ねた。改憲論議がかまびすしい近年、日本国憲法の源泉に植原の憲法論があるとの評価がされているという。植原の政治学・憲法論の真価はどこにあるのか。吉野作造の民本主義への批判や、冷ややかに見つめた美濃部達吉の天皇機関説事件、忍び寄る国体明徴運動などを通して、植原の思想の核心は、徹底した国民主権であることを浮かび上がらせる。

 本書は表記書名を第一部とし、「第二部 憲法学者宮澤俊義教授の足跡」、「第三部 リベラリスト清沢洌の思想」の独立した三部構成になっている。三人は同郷で共にリベラリスト、しかも、孤高の在野精神をもっていた。著者は製作途中の昨年11 月、本書を手にすることなく他界された。出版社の追悼のあとがきに、「危うい時代にさしかかっている日本の行く末に警鐘を鳴らし続けた」とある。その思いがひしと伝わってくる。(飯澤文夫)

◆2800円・四六判・290頁・龍鳳書房・長野・202301 刊・ISBN9784947697776

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『近江学 第14号』●成安造形大学附属近江学研究所編

書影

 喜怒哀楽の日常を積み重ねながら、禍を伴う生老病死をたどっているのが人びとの一生であろう。この文化誌の冒頭「禍 転じて─再生への道筋」で写真家の今森光彦氏は、そういった禍と人の暮らしについて論じる。崖崩れや水害によって一掃された植物は新たな命を芽生えさせる。同様にそこに暮らす人間はその経験から知恵を生み出す。里山文化もその一つだという。世界的に流行した新型コロナウィルスの感染拡大は、私達を苦しませたが、「近江における厄除 元三大師信仰」では、平安時代の天台僧 良源が、疫病から人々を救うため、夜叉の姿となって疫病を退散させたという、元三大師信仰の由来を述べる。その姿を写した「角大師」は疫病や災い祓う魔よけの護符として、今も厚く信仰されている。

 「大津絵と疱瘡絵 近江発、禍への絵画的対抗手段」によると、かつて疫病の代表格は天然痘(疱瘡)であり、神の祟りなので神のご機嫌こそが禍の要因とされた。したがって集落や地域全体で祭礼を挙行して疱瘡の神様を歓待してもてなし、なだめて鎮め、域外までおとなしく移動してもらい、異界に送り返すことが疫病対策であった。「かわそ信仰と女性」の項では、6月ごろ滋賀県北部で行われる「かわそ」祭を解説する。腰下の病、つまり婦人病に効験があるとして、主に女性の信仰を集めた。近江地方には、禍をさける・はらう・おくるための様々な四季折々の祭礼が行われ、禍を転じて福となす祈りが続く。(古賀邦雄 古賀河川図書館)

◆1800円・260mm×210mm判・95頁・サンライズ出版・滋賀・202302刊・ISBN9784883257829

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『死に方の流儀─中村メイコさんと山折哲雄先生に訊く』●瑞田信弘 著

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 「上手に生きて・上手に死のう」がモットーの香川県高松市にある浄土院称讃寺の第16代住職の著者。日本はすでに超高齢社会に突入し、住職が担当した葬儀も確実に増加しており、20年間で約2000人の生死を見つめてきた。「死」にどう臨むのかは人それぞれだが、上手に死ぬ準備が終活とも言える。 本書は地元でのトークセッションが縁で実現した女優・中村メイコと宗教学者・山折哲雄との対談をベースに「生き方・死に方」を切り口として人生論としても参考になる。中村メイコは終活に関する著書も多く、本人の終活について、夫・神津善行との生活や子どもたちへの希望を語る。美空ひばりや山田五十鈴などのエピソードが飛び出すのも中村メイコならではだろう。

 一方、山折哲雄からは死生観や仏教界への提言など厳しい意見が出される。自身、何度か病に伏し、終末期の医療に対して確固たる信念を持ち、医学の進歩により平均寿命が延び、生と死の間に「老」と「病」の領域が広がり、死を先延ばしにするから死を必要以上に恐れるようになったという意見も説得力があり、もっと「老病死」に仏教界が関わるべきだと叱咤激励する。二人に当意即妙に応える住職も見事である。 医療、介護、葬儀、相続などの実践アドバイス付。特に住職が実際に見聞した事例には考えさせられることが多い。人生の最終章をいかに暮らすかで本人や家族の満足度も変化する。貴重な指南書である。(Y)

◆1200円・四六判・270頁・アートヴィレッジ・兵庫・202301 刊・ISBN9784909569677

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『平成参勤交代の旅』●上野堯史 著

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 江戸時代に各大名が遠く離れた領地からはるばる江戸まで上らなければならなかった参勤交代。九州南端に位置する薩摩藩も江戸までの長旅を陸路・海路を交えて行っていました。その参勤交代の旅路を平成の世(2000〜2007年)に辿った記録が本書です。薩摩藩の参勤交代路は西海路や九州路などいくつかありますが、著者が選んだのは日向路。鹿児島から鹿児島湾を船で大隅国福山(霧島市)へ渡り、そこからは陸路日向国細島(日向市)へ。細島からは日向灘・瀬戸内海を経て播磨国坂越(赤穂市)で上陸、そこから一路山陽道・東海道を東に進むコースです。ちなみに海を渡る区間は鉄道や高速バスなどでの代用となります。

 しかしこの日向路の跡をトレースするのはなかなか大変だったようです。道を間違えてはわざわざ戻っては歩き直しをしたり、歩道がなくて歩くのに危険な個所もあったり、嘆きの声がたびたび本書に現れます。参勤交代をはじめとして多くの人が行きかったであろう大道も、場所によっては細い道になっていたりと、道の栄枯盛衰を感じさせます。それでも辻々にはかつてをしのばせる史跡が多く残されているのは由緒ある道の名残でしょうか。かつての参勤交代路が150年を経た今どのような佇まいを見せているかという貴重な記録となっています。それと同時に、几帳面な著者は道中ポイントごとに所要時間や歩数までしっかりと計測、日向路を旅してみたい人にも格好の資料となります。(副隊長)

◆2700円・A5判・358頁・ラグーナ出版・鹿児島・202301刊・ISBN9784910372105

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