トップページ地方・小出版流通センターサイトマップ

地方・小出版流通センターあなたはこの本を知っていますか

地方・小出版流通センター発行情報誌「アクセス」より

新刊ダイジェスト(2023年05月号発行分)

『見沼の龍神と女神』●宇田哲雄 著

書影

 埼玉県東部に広がっている見沼田圃は、もとは沖積低地が沼沢化した広大な自然な沼で、古来より「御沼」「神沼」「三沼」「箕沼」とも書かれており、さいたま市緑区宮本に鎮座する氷川女體神社の御手洗瀬として神聖視されてきた。そこから、江戸時代の二度にわたる大規模新田開発によって新田となった。すなわち、寛永6年(1629)に幕府代官、伊奈忠治によって約12?の溜井が造成されてそこから分水された用水路で下流域が灌漑、干拓され、さらには享保13(1728)、井沢弥惣兵衛為永によって利根川から延長80kmにも及ぶ見沼代用水を引くことにより見沼干拓が完成したのである。この見沼代用水は、2019年に国際かんがい排水施設委員会(ICID)により、世界かんがい施設遺産に認定・登録された。本書は、この見沼の歴史と当地の伝説、信仰を照応させながら、見沼研究の新たな視点を提供するものである。

 もとより見沼周辺には「龍」「大蛇」「ゴイゴイ」「オタケ様」など様々な呼び名で伝わる沼の主にまつわる伝説が多く残っているが、見沼開発に関わるものとして、干拓事業にとりかかった井沢弥惣兵衛為永のところに夜な夜な美女が現れて「自分は見沼の主であるが沼を干すのをやめてもらいたい」と言った、という話が伝わっている。為永はその後干拓事業で災難に直面し自身も病となったという。別の伝説では沼の主が「自分に三町四方の田を残してほしい」と為永に願ったが、為永は、それは難しいこととして寺に神燈を寄進し「龍神燈」として主を慰めることにした。事業完成後には、主は見沼に棲めなくなったので千葉の印旛沼に行った、あるいは信州の諏訪湖に移り棲んだ、という龍神引っ越し伝説も残る。これらの伝説を通観すると、開発事業に際しての人々の土地神への恐れや葛藤を読み取れる、と著者は言う。

 ところで古くより見沼を御手洗瀬としてきた氷川女體神社の主祭神は素戔嗚尊の妃である奇稲田媛尊である。またその近くには素戔嗚尊を主祭神とする武蔵一宮、氷川神社が鎮座している。見沼信仰研究において、これら見沼地方の信仰が出雲国の氷川信仰の移入したものとする説があるのを著者は踏まえながらも、氷川信仰以前から見沼では「みぬま神」という女神による聖水信仰の祭祀が行われていたとしている。それが古代になって出雲からの氷川信仰と習合されたのだと。これは、聖なる水を管理して神や貴人の誕生、再生の禊ぎの儀礼に関わった女神「みぬま神」について考察した折口信夫の『水の女』を参照しての著者の見立てである。ここから、見沼周辺に木花咲耶姫を祀った浅間神社が多いこと、宗像社や他の女體社、為永が見沼代用水路沿いに整備した弁天社などについても言及して、見沼と女神信仰との親和性というところに視点を広げる。そして、そう言い切っているわけではないのだが、龍神の化身として美女など、この地に多く残る美女伝説についても、最古の地方神としての「みぬまの女神」の面影を著者は見ているように読める。(N)

◆1800円・四六判・182頁・さきたま出版会・埼玉・202303刊・ISBN9784878914874

《オンライン書店で購入》
※主なショッピングサイトのトップページにリンクを貼っています。リンク先の書店によっては、お取り扱いしていない場合があります。ご了承ください。
hontoHonyaClub.com紀伊國屋WebStoreブックサービスセブンネットショッピングe-hon楽天ブックス文教堂Jbooks丸善&ジュンク堂書店アマゾンTSUTAYAエルパカbooksYahoo!ショッピング

地方・小出版流通センターへの直接注文、お問い合わせはコチラをご覧ください。


『ボーダーツーリズムの記録 1997−2022 −国境に立って、感じて、撮った』●斉藤マサヨシ 著

書影

 現在陸続きで他国と国境を接していない日本では、普段国境というものを意識することはあまりないかもしれません。しかし海の国境は存在しますし、かつて日本の領域が膨張していた時代には、今よりもっと長い「国境」が存在しました。

 本書は著者がそんな国境を巡ってきた「ボーダーツーリズム」の記録を多くの写真と共にまとめたものです。旅の始まりは著者の住む稚内。今も残る稚泊航路のドームは、かつて樺太(サハリン)への玄関口だった記憶を今に伝えます。そして対岸のサハリンには日本の軍事施設・産業施設などの跡もあり、終戦時のソ連侵攻による悲しい記憶も残されています。そのほかにもノモンハン・ペリリュー島・占守島など国境の地はかつての戦争の記憶を色濃くとどめ続ける土地でもあります。一方でかつての満洲国とソビエト国境は今もロシアと中国の国境としてマトリョーシカ型のホテルが建っていたり、独自の賑わいを見せています。対馬も韓国からの旅行者が大勢やってくるなど国境ならではの独特の雰囲気も見逃せません。与那国・稚内など今は行き止まりの地もその先と再び繋がっていけば、かつての賑わいが戻ってくるのでしょうか。いくつもの国境が見せる姿はそんな想像まで掻き立ててくれます。また国境に広がる美しい自然や風景の写真も本書の魅力のひとつです。とりわけ中ロ国境の見渡す限りの大平原は、その上に人為的に国境を引くことのむなしさも感じさせますね。(副隊長)

◆5200円・B5判・212頁・北海道大学出版会・北海道・202303刊・ISBN9784832934177

《オンライン書店で購入》
※主なショッピングサイトのトップページにリンクを貼っています。リンク先の書店によっては、お取り扱いしていない場合があります。ご了承ください。
hontoHonyaClub.com紀伊國屋WebStoreブックサービスセブンネットショッピングe-hon楽天ブックス文教堂Jbooks丸善&ジュンク堂書店アマゾンTSUTAYAエルパカbooksYahoo!ショッピング

地方・小出版流通センターへの直接注文、お問い合わせはコチラをご覧ください。


『詩と散策』●ハン・ジョンウォン 著/橋本智保 訳

書影

 散歩を愛し、歩きながら見たり聞いたりした、すべての些細なことを大切ししてきた著者。詩人でもあり、彼女が愛する詩人たちの詩が文章の中に散りばめられている。

 冬を愛する理由は百個ほどあるが、その一から百までがすべて“雪”。それほどまでに雪を愛する著者は、自分と飼い猫の生まれ月なので11 月を偏愛していると告白。11 という数字は、二本の木のように見えて、11 月の森の中に出かけてみる。心が傷ついた時には海に行きたくてたまらなくなる。散策だけではなく、姉との思い出、閉鎖病棟でのボランティア活動から導き出されたことも深く静かに語っている。〈長く使うと体の関節が擦り減るように心も擦り減る。だから“人生百年”というのは残酷だと思う。人間には百年も使える心はない〉と、老いについて思いを馳せ、先述の海の前では心の中をさらけ出して叫ぶ。〈海で最も密度が高いのは、砂でも塩でもなく、秘密かもしれない〉と、支えにしている。映画も学んだ著者らしく、映画の紹介も多い。オクタビオ・パスの詩から始まり、ボルヘスで締めくくられるが、間には金子みすゞや和歌も引用され、日本の読者にとっても親しみやすい。

 散歩者であると同時に収集者でもあるという著者は実際に葉や石などを拾うが、一方で音や言葉といった耳を澄ませて拾うものもあり、そこからまた世界が広がっていく。読むと散歩しているような気分にさせられる。移ろいゆく季節も表現され、25編それぞれがきらめく詩のような美しいエッセイ集。(Y)

◆1600円・188mm×122mm判・148頁・書肆侃侃房・福岡・202302刊・ISBN9784863855601

《オンライン書店で購入》
※主なショッピングサイトのトップページにリンクを貼っています。リンク先の書店によっては、お取り扱いしていない場合があります。ご了承ください。
hontoHonyaClub.com紀伊國屋WebStoreブックサービスセブンネットショッピングe-hon楽天ブックス文教堂Jbooks丸善&ジュンク堂書店アマゾンTSUTAYAエルパカbooksYahoo!ショッピング

地方・小出版流通センターへの直接注文、お問い合わせはコチラをご覧ください。


『明治四年・久留米藩難事件』●浦辺登 著

書影

 明治維新後の反政府行動は、明治7年の佐賀の変に始まり、萩の変などを経て、10年の西南戦争に行きつくとされ、それに先立つ4年に、久留米藩難事件あるいは大楽源太郎事件と呼ばれる事件があったことはほとんど取り上げられることがない。

 長州藩で藩兵解除反対騒動を起こして脱藩した大楽を、久留米藩の小河真文らが匿い、これを発端に2府39県に波及して260名以上が処分された大事件である。ほかの事件が不平士族の反乱であったのに対し、この事件は、社会底辺の人々が幸福を実感できていないとして草莽の医師や農民を統括する庄屋層が加担し、徹底抗戦を主張した特異性を有している。しかし、新政府の厳しい追及に、大楽は当初匿ってくれた者たちの手によって殺害され、小河も処刑される。藩内の佐幕、勤王両派の凄惨な権力闘争や、石高21 万石の小藩でありながら7隻もの艦船を保有して久留米海軍というべき軍事力を備えた幕末の動向を前史に、事件後に自由民権運動につながっていくまでの道筋を、関係地域の自治体史誌や大楽ら事件関係者の慰霊碑文を丹念に読み解き、関係者の人物像を浮かび上がらせて、複雑極まる事件の真相に迫る。巻末に処罰対象者の一覧が掲げられている。わが国の近代化が多くの有為の人材の犠牲を伴うものであったことに胸が痛む。明治維新とは何であったのか、まだ見過ごしているものがありはしないか。この事件から学ぶことは多いとの指摘に考えさせられる。(飯澤文夫)

◆2000円・四六判・213頁・弦書房・福岡・202302刊・ISBN9784863292635

《オンライン書店で購入》
※主なショッピングサイトのトップページにリンクを貼っています。リンク先の書店によっては、お取り扱いしていない場合があります。ご了承ください。
hontoHonyaClub.com紀伊國屋WebStoreブックサービスセブンネットショッピングe-hon楽天ブックス文教堂Jbooks丸善&ジュンク堂書店アマゾンTSUTAYAエルパカbooksYahoo!ショッピング

地方・小出版流通センターへの直接注文、お問い合わせはコチラをご覧ください。


『秩父廃寺録』●堀口進午 著

書影

 四方を山に囲まれた埼玉県秩父地方には、独自の文化が育ちやすい。しかし、孤立した独自の文化は滅び、埋もれやすいという側面を持っている。秩父市街からほど近い浦山地区の山中にはたくさんの廃村が所在しており、首都圏からならば、日帰りでその一端に触れることができる。元中学校教師の著者は、定年退職によって得た時間を使って秩父を対象に野外調査を続けているうちに、廃寺(お堂、地蔵、石塔など寺に係わるものを含む)という掘り下げるべきものを見つけた。そこにたどり着くまでには、手引きとなる資料との出会い、地域の方々との出会いがあった。

 本書では資料「新編武蔵風土記稿」に載った203か所に、著者が新たに見出だした80か所(修験道関係36か所、その他44か所)を加えた全283か所の廃寺について、寺院名、所在地、地図、説明、写真が各1 ページでまとめられている。203か所は2年でまとまったが、80か所を調べるにはさらに5年かかったという。振り返って著者は「ひとつの手がかりから、闇の中の廃寺がその姿を現していく過程が楽しい」と語っている。遠い昔から脈々と続いていた信仰の歴史の一端が、廃寺という形であぶり出されている。

 時代の流れがとても早い昨今、ひととき時間が止まるほど没頭できるものは何なのだろうか。秩父でそれを見つけた著者の笑顔が垣間見れた。(HEYANEKO)

◆2500円・A4判・306頁・まつやま書房・埼玉・202302刊・ISBN9784896231793

《オンライン書店で購入》
※主なショッピングサイトのトップページにリンクを貼っています。リンク先の書店によっては、お取り扱いしていない場合があります。ご了承ください。
hontoHonyaClub.com紀伊國屋WebStoreブックサービスセブンネットショッピングe-hon楽天ブックス文教堂Jbooks丸善&ジュンク堂書店アマゾンTSUTAYAエルパカbooksYahoo!ショッピング

地方・小出版流通センターへの直接注文、お問い合わせはコチラをご覧ください。


baner

株式会社 地方・小出版流通センター
郵便番号162-0836 東京都新宿区南町20
TEL.03-3260-0355 FAX.03-3235-6182

電子メールでのお問い合わせは、chihosho●mxj.mesh.ne.jp まで。

*お手数ですが、●の部分を半角のアットマーク「@」に書き換えてご送信ください。スパムメール対策のためです。すいませんがご了解ください。

当ページに掲載されている記事・書誌データ・写真の無断転載を禁じます。


トップページ地方・小出版流通センターサイトマップ