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地方・小出版流通センター発行情報誌「アクセス」より

新刊ダイジェスト(2023年11月号発行分)

『頭山満・未完の昭和史 ─日中不戦の信念と日中和平工作』●石瀧豊美 著

書影

 頭山満は、『広辞苑』に登載されるほどの歴史上の人物だが、今、その名を知る人はどれほどいるだろうか。この辞書には、右翼の巨頭、萩の乱に連座して入獄し、出獄後は自由民権運動に従い玄洋社を創設、国権の伸張、大陸進出を唱えた政界の黒幕とある。だが、生涯在野の無位無官を貫き、時に政府と対立して、国を追われた孫文やインド民族運動の指導者ラス・ビハリ・ボースに救いの手を差し伸べたこと、何より、日中和平工作に邁進したことは記されていない。

 著者は前著『玄洋社・封印された実像』(海鳥社 2010)で、綿密な史料批判に基づいて、玄洋社は秘密結社でも大陸侵略戦争の先兵でもなかったとの論陣を張った。同様に本書では、頭山にまとわりつく、超国家主義者、侵略主義者の烙印も、戦後歴史学のうわべだけの判断であり、誤解され、おとしめられて正当な歴史評価を受けていないと主張する。

 共に近衛文麿首相と連絡を取りながら中国との接触を図った元法相小川平吉の日記、日中戦争のさ中に玄洋社が発行した日中親善を訴える冊子、頭山の死後に中国各地で催された頭山追悼会の様子を報じた現地新聞などを傍証し、頭山の日中和平にかける思いを浮き上がらせる。戦後の研究書は頭山のアジア主義を侵略の側面でしかみていないと厳しく批判し、昭和史は未完のジグソーパズルであり、頭山のピースが埋まらないと、昭和史というパズルは完成しないと述べる。(飯澤)

◆3800円・A5判・376頁・花乱社・福岡・202309刊・ISBN9784910038780

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『生きた言語とは何か ─思考停止への警鐘』●大嶋仁 著

書影

 著者には既に『メタファー思考は科学の母』(弦書房)という著書がある。そこでは、対象を別のものに喩えたり、自己の身体感覚や生命感覚を世界に投影するアニミズム的なメタファー思考が、言語習得以前から人の認知機能を支えており、もしこの原初的思考が十全に育まれなかったら科学を支える論理思考もまた十分に育つことはない、と述べられていた。当時、文科省による国立大学人文社会科学系学部・大学院の見直し案が文系不要論と捉えられ、大きな議論となっていた時代背景があった。

 本書『生きた言語とは何か』においても著者の考え方は一貫しているが、時代は人工知能すなわちAIのめざましい進化の只中にある。著者はこういった時代環境を言語の問題として捉え、今回は言語論から斬り込んでいくのである。そして、死をもたらす言語と生命ある記号、イデオロギーと詩、さらには、生に密着した感情の言語と生から離れた理知の言語、といった対比によって、メタファー思考を焦点化しつつ、流動する具体的で感覚的な相を捨象してしまう「言語の監獄化」に警鐘を鳴らす。興味深いのは、著者のこのような着想の原点となった経験を語った部分である。フランス留学時代、毎日デカルトの『方法序説』を読んでいたところ、それまで愛読していた小林秀雄の独特なニュアンスに富む日本語が外国語のように遠く感じられ頭に入ってこなくなってしまった、この事態を救ってくれたのがレヴィ=ストロースの『野生の思考』だった、という。(N)

◆1900円・四六判・224頁・弦書房・福岡・202309刊・ISBN9784863292734

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『中世水軍領主論 ─紀州熊野からのアプローチ』●高橋修 著

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 治承・寿永の内乱期、熊野別当湛増が平家につくか源氏につくかで悩んだ末、新熊野の社頭における鶏合せで源氏につく決断をしたという「平家物語」の記述はあまりにも有名である。勿論フィクションではあるが、湛増らの参加が壇ノ浦合戦での源氏の勝利を決定的にしたことには変わりはない。湛増率いる熊野水軍が以仁王の令旨を受け取るや即座に反平氏の狼煙を上げたことや、当時の熊野における湛増の権力がそれほど大きくなかったことなどを聞かされると、何やら穏やかではなくなる。長年平家に恩義を感じている湛増が以仁王の令旨に呼応する新宮や那智の勢力に戦いを挑み、さらには京に上って平宗盛に反平氏勢力の蜂起を知らせるなど平家方として描かれている「平家物語」の湛増像が崩れ去るからだ。

 また、当時の熊野別当家は熊野三山それぞれの系統に分れ、新宮家と田辺家(湛増系)との間で別当職をめぐる権力争いが起こっており、湛増が自身の勢力拡大のためにこの内乱を利用したことが事の真相だと知ると、ただ単に源氏と平家の権力争いと考えがちな治承・寿永の内乱も多層的な構造を挺していたということが改めてわかる。熊野のいう土地柄が平家の本拠地・伊勢国と平家の勢力基盤である瀬戸内周辺とのちょうど中間にあり、エアポケットを成していたという指摘は注目すべき。平忠度の生誕地伝説(本書第1章付論)や平維盛の入水伝承も熊野という特異な土地だからこそ生れたものだろう。(I)

◆5000円・A5判・249頁・高志書院・東京・202309刊・ISBN9784862152398

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『西欧古地図に見る鹿児島 ─GANGOXUMA「島」への旅』●寺邑昭信 著

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 鹿児島には16世紀から西欧人が出入りしており、西欧でもそれなりに知られた地名となっていました。そのため当時のヨーロッパにおける世界地図には、日本地名のひとつとしてしばしば鹿児島が記載されています。しかしそれらを見比べてみると、表記や場所などには違いが見られます。著者はそうした西欧の地図に表された鹿児島を図版ごとに比較していきます。もちろん当時の西洋にとって日本の情報など少ない時代でしたし、正確でないのは当然ですが、鹿児島に絞って注目してもいろいろなことが見えてきます。例えば現代ではその表記については"Cangoxina"であったとするのが膾炙しているようなのですが、著者が様々な地図にあたってみると、実際には"Cangaxuma""Cangoxima"など様々な表記があり、むしろその中では"Cangoxina"は少数であったこともわかってきます。

 他にもショイヒツァーなる人物が作った日本地図の薩摩国西海岸上に忽然と姿を現した"Cangoxuma"島についても考察を巡らせています。この謎の島を調べていくと、彼が参考元とした図には存在しませんでした。ということは何らかの理由で彼の手により加筆されたことになります。そこからは鎖国により日本の最新の情報が入りにくくなったことや、それぞれの先行地図への評価など、西欧の地図製作事情まで垣間見えてきます。正確な地図など作りようがないから、荒唐無稽でもやむを得ないと考えがちなところを敢えて切り込んでいくことで、意外な背景が見えてくる一冊です。(副隊長)

◆3800円・A5判・319頁・南方新社・鹿児島・202308刊・ISBN9784861244841

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『寺山修司 彼と私の物語 ─九條今日子の告白』●青目海 著

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 「あなたは仕事でいろんな人物を演じたけど、そろそろ寺山映子という役を演じてみない」これが決め台詞となり、1962年に結婚した寺山修司と九條今日子(本名は映子)。かつて松竹歌劇団(SKD)の踊り子で、その後女優になり、結婚後は寺山と共にアングラ劇団「天井桟敷」を創り、離婚してからも劇団のプロデューサーを務め、寺山亡き後もその遺志を継ぎ、寺山作品の著作権管理を行うなど、精力的に活動を続けてきた。しかし、2014年に死去。亡くなって一年後、「天井桟敷」の創立メンバーだった著者が晩年の九條と過ごした数年間を書き始めた。

 当時著者が暮らしていたポルトガルでの日々を綴ったエッセイの出版がおよそ四十年ぶりの再会のきっかけで、しかも二人で飲むのも初めてだったが、以後、帰国のたびに思い出の店で酒を飲み、料理に舌鼓を打つ。酔いもあいまって語られる寺山との日々を聞きながら、著者自身の記憶も甦る。最後に会ったのは暮れも押し迫った銀座の小料理屋。「アンタといるといろんなこと思い出すのよ」と、離婚後、偶然会った中華の店を出た後、雪が舞い始めた銀座の空を寺山と一緒に見上げて「きれいだった」と懐かしむ九條。その時、何かが吹っ切れて、寺山のために劇団のために精一杯仕事をしようと思ったと語った。数々のエピソードから当時のカルチャーがわかるのも興味深い。さらに寺山の類まれなる感性を改めて思い知らされると共に、在りし日の二人の素顔が浮かび上がる。(Y)

◆1900円・四六判・277頁・書肆侃侃房・福岡・202308刊・ISBN9784863855847

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『椿の杜 物語 ─日本史を揺さぶった<長州神社>萩 椿八幡宮』●堀雅昭 著

書影

 会津藩家老の子孫で、戦後「右翼のフィクサー」となった田中清玄が、靖国神社を「長州の守り神にすぎない」(『田中清玄自伝』)と揶揄したのは有名だ。本書は、そんな《長州神社》の由来ともなった山口県萩の椿八幡宮の歴史を描いた初のビジュアル版History Bookである。幕末を駆け抜けた青山清宮司は、討幕戦争で亡くなった志士たちを神として祀り、維新後に靖国神社の初代宮司になっていた。これに先駆け、戊辰戦争の直前に、「錦の御旗」の密造にも関わる。扉に使われているのは、その日月旗(錦旗)なのだ。この話は『山口県史 通史編 幕末維新』にも出てこないが、歴史好きにはわりと知られている。本書の面白さは、公式の維新史から外された箇所を、あえて丁寧にすくいあげているところだろう。

 一方で、椿八幡宮の歴史は古く、NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」に登場した佐々木高綱が、仁治四(1243)年に創建していた。高綱は吉田松陰の叔父・玉木文之進や乃木希典の祖でもある。境内の祇園社は更なる母体で、豪族「椿氏」が護ってきた古社。彼らのルーツは『日本書記』に登場する草壁連醜経(クサカベノムラジシコブ)で、地元で獲れた白いキジを朝廷に献上し、「大化の改新」後の初の改元「白雉」年号を成立させていた。古代から明治近代まで、時代の変革期に輪郭を見せる謎の《長州神社》。長州好きにも、長州嫌いにも、注目の一冊。公式記録から消された歴史の謎解きが、本書の楽しみ方ともいえそうだ。(沢田陽介)

◆1500円・A5判・133頁・UBE出版・山口・202310刊・ISBN9784910845036

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『天空の限界集落 ─秩父[裏山・太田部・大滝]に生きる人々』●山口美智子 著

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 埼玉県西部、荒川の源流がある秩父には、浦和や熊谷、所沢など平野部とは明らかに異なる風土がある。それは四方が山に囲まれているなどの地理的な要因を主とするが、それゆえに育まれた独自性が強い文化があるからなのだろう。

 本書では、昭和20年に秩父で生まれ、育った著者が、秩父の中で過疎が進んだ三地区(浦山・太田部(おおたぶ)・大滝)について、地区ごとに8名ずつ、計24名の住民の声の聞き取りを行い、昔日の記憶を中心として、地区に関わるさまざまな事柄をまとめている。秩父郡太田部村は明治22年の市町村制施行時に消滅したが、浦山村は昭和31年(昭和の大合併)まで、大滝村は平成17年(平成の大合併)まで存続した。三地区の規模は大滝、浦山、太田部の順で大きい。登場する方の多くは昭和3年(1928)から20年(1945)に地区内で生まれ、育ち、住み続けている。昔日の記憶は昭和20年代から40年代までが多く、地区内のことが大半なので独自性が強い。山奥に炭焼きの家族が入って暮らしていたこと、夏の祭りに瞽女(ごぜ)がやってきたことなど、今は想像できない。

 取材時期はほぼ平成28年(2016)から令和元年(2019)までなので、登場人物の中には亡くなられた方もいるであろう。住民がごくわずかになり、これから三地区はどうなっていくのだろうか。歴史は人が入れ替わることで動いていくことを強く感じた。(HEYANEKO)

◆3000円・四六判・364頁・一葉社・東京・202310刊・ISBN9784871960922

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『ウィーン、わが夢の街 ─フロイトと熊楠』●平山令二 著

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 この物語の語り手の「私」は、元外務省高官。1945年の東京大空襲の日、屋敷にひとり残っている「私」は空襲の轟音の中で、懐かしいメロディーを聞いたような幻聴を覚える。それは「ウィーン、わが夢の街」というウィーンの昔の流行歌だった。その歌を聞きながら「私」の思いは、1900年のオーストリア=ハンガリー帝国の首都、ウィーンへと飛んでいく。そこでまず読者が目にするのは、大酒を食らって「私」に唾を撒き散らしながら大声で話し続ける熊のような太った男である。何でも紀州の生まれで、子どもの頃から山中を庭のように歩き回り、天狗とも友達付き合いをしていたという。そう、柳田國男や折口信夫とともに日本民俗学の創始者の一人でありまた博物学の巨星とも言われた南方熊楠である。

 当時熊楠がウィーンへ向かったという史実はないが、ここで熊楠が登場するのは、オーストリア帝国との文化的交流を深めるためにウィーンの日本大使館がロンドンの大英博物館の館員をしていた熊楠に白羽の矢を立てた、というこの物語の設定による。そしてロンドン大使館員だった「私」が熊楠をウィーンの街まで案内し、共にこの都の様々な顔を見ていくのである。物語の大きな魅力となっているのは熊楠が行く先々で出会う著名な芸術家や学者、学生たちと交わす知的な議論の中身である。中でも興味深いのが、当時『夢判断』を出版したばかりのフロイトと熊楠の、それこそ「夢」のような対話である。ほんとうにこんな場面が実現していたら、と思わずにはいられない。(U)

◆2600円・四六判・517頁・鴎出版・千葉・202309刊・ISBN9784903251219

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