地方・小出版流通センター発行情報誌「アクセス」より
「魚が減った。漁業は大変だ。水産業の先行きはないと言われている。これは間違っている。」確かに海面漁獲量は、1980年代の1100万トンから半減している。だがそれは、遠洋や沖合の無差別、大量、大規模漁業で起きていることで、沿岸の日帰り漁である大型定置網の漁獲量は、この30年余り安定し、定置網の数は100年近くほとんど変わっていないという。沿岸漁業に共通しているのは、生物多様性を維持的な漁法で獲り続けていること、そして、集落全体が共同経営の形をとっていることである。
例えば、高知県室戸岬東岸の高岡、三津、椎名の集落は約9割が定置網で、ほぼ全戸が一戸一株の漁業権を保有している。富を平等に分配し、生活の安定を維持する仕組みであり、明治期から旧態依然として変わっていない。いま一つは、漁村における15歳以上の人数に対する、0〜14歳の子どもの割合が高いことである。2018年の漁業センサスの調べでは、白エビ漁が盛んな富山市内の岩瀬地区は0.372で、県の0.140、市の0.316を大きく上回っている。これは、漁業労働、経営においても女性、母親の存在のもつ意味が大きいからだと分析する。 こうした、北海道厚岸から沖縄県渡嘉敷島まで、漁場を守り元気でしぶとく確かに生きる21の漁村を取り上げ、共同体の力と相互扶助こそがその源泉であると述べる。江戸以来、「磯は地付き、沖は入会」の思想は変わらず、漁具、漁獲方法、漁期など資源維持の方策は、共同体で話し合って決めればいいとの提言にも納得する。(飯澤文夫)
◆2000円・四六判・191頁・フライの雑誌社・東京・202501刊・ISBN9784939003981
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白ワイン用品種のブドウが菌に感染し、糖度が高まり、芳香を帯びる現象を「貴腐」といい、腐敗したかのように見える外見からは 想像しがたい風味の甘口ワインとなる。仏語 などで「高貴なる腐敗」を意味し、それを直 訳したのが「貴腐」だが、表題作の小説の中では、主人公の男性が中性的な若者を被写体とした写真集のタイトルの一部である。白い裸体を際立たせるために撒かれた薔薇。その肌はさらに気高く透明な薔薇のように美しい。 送られてきた写真集を見た教授は甘い白ワインを飲んだ瞬間のような心地になるが、男性と教授の間には、複雑な因縁があった。
本書は5編から成る小説集。表題作の他に 十年振りに精神科医の友人の妻から連絡を受 けたが、彼は行方不明と知らされる「トッカ ータとフーガ」、慕っていた思想家・大杉栄 を死に至らしめた甘粕大尉を殺そうとノルマ ンディ公国の主都ルーアンにやって来た画家の逡巡を描く「ルーアンの長い一日」、戦中戦後と時代に翻弄されたドイツと日本のハー フの男性の回顧録「虚空山病院」、親交が途 絶えていた先輩Sの人生に衝撃を受ける「贖贄庭園」を収録。登場人物はパリに留学していたり、仏語の教授だったり、作中にはカミュやヴァレリーなどの文学が出てきたりと、著者の仏文学の造詣の深さを窺わせる。書簡や回想の形で友人の過去を知るという構成が多いが、実らぬ恋でも破滅型の人生でも、激しく輝いていたと確信できる。重厚な中にも清々しさが漂う小説集。(Y)
◆2000円・四六判・309頁・書肆侃侃房・福岡・202411刊・ISBN9784863856493
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「今からおよそ五十年近くも前のことだ。私はある夢を見た。哲学者の夢だ。幾人も幾人も…」こんな書き出しで始まる「まえがき」は生身の著者が語っているのかと思いきや、すでにここからこの哲学ファンタジーは始まっているらしい。ここで語っているのは著者に擬した物語の語り手であり、自分はかつて五夜続けて著名な哲学者たちに会い対話するという、連続性と同一性をもった一つの長編小説のような夢を見たという。そして、遺言としてそれをここに記す、と。こうして連続夢という額縁の中で、古今東西の名だたる哲学者たちから教えを受け、その思想を掘り下げいく主人公の思索の旅は始まる。ユニークなのは、夢の原則に則って、それぞれの哲学者たちの抽象的な思想の独特な特徴が風景や形象に変換されていることである。海で出会った「ヘーゲルの船」は、その弁証法にふさわしく、マストは三本、船首のへりも三段の高さになっていて旗も三つついている。また「ハイデガーの山小屋」へ続く道は、その思索の表現そのもののように丹念かつ入念に造られ、うかつに踏み込めないような迫力を持っている。
ところで著者は、「第二夜の夢 神が統べる世界」において、アウグスチヌスに「私は、出会った思想に解決を求め、それを徹底的に探求し、活路を見出そうと必死でした。それは、真摯で激しいものでした」と語らせている。このような言葉を読み過ごすことができず、なんとなく自分にも身に覚えがあると感じるなら、きっと誰でも本書の読者にうってつけである。(岡安 清)
◆2500円・A5判・523頁・アートヴィレッジ・兵庫・202501刊・ISBN9784909569882
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ストリップ劇場は2024年現在で17館(本書p235)とかつてに比べるとその数を減らしてきました。本書はかつて隆盛を誇ったストリップ劇場に出演していた著者による、ストリップ劇場のある/あった街の記録です。ひとつ目の街は浅草。戦後すぐに女性の裸を見せる演劇が始まった浅草。今も昔も芸事の街という雰囲気が描かれています。ストリップが単に裸を見せるだけでなく、軽演劇を志向していたこともあったことも分かります。浅草の観客の見巧者ぶりを示すエピソードは印象的です。ふたつ目の街は新宿。この街の60〜70年代を彩った人々として挙げられる大島渚・土方巽・唐十郎などの名前を聞くと当時の街に溢れたエネルギーも想像できます。
一方でストリップはその他の風俗産業の発展の影響を受けつつ、また警察の取り締まりの目もかいくぐらねばならず、次第に下火となっていきます。船橋ではストリップ劇場と地元の人との関係は大都市とはまた一味違い、地元に根を下ろしたストリップ劇場の姿が垣間見えます。そして最後は著者が住む札幌。ススキノの街の成り立ちもさることながら、ここでデビューを果たした踊り子さんの話も興味深いです。本書は膨大なストリップの歴史のほんの一部ではありますが、誰かが書き残さなければおそらく歴史の闇の彼方へ消えてしまいます。往時の街の空気を描きとどめるとともに、ストリップ文化の世界を演者の目から書き記した貴重な一冊といえるでしょう。(副隊長)
◆2500円・四六判・235頁・寿郎社・北海道・202412刊・ISBN9784909281647
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