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地方・小出版流通センター発行情報誌「アクセス」より

新刊ダイジェスト(2025年04月号発行分)

『新聞はなぜ、原発を止められないのか −こうして記事は消された。ある記者の手記』●吉田昭一郎 著

書影

 ジャーナリストの使命感から、大株主に忖度する社の意向に抗って筆を揮い、失職に追いやられた一人の新聞記者が、社と世間への遺言のように綴った手記である。

 西日本新聞社の記者として、長崎県平戸支局に勤務していた折り、佐賀の九州電力玄海原発再稼働に直面し、東京電力福島第一原発事故を経験した国がいとも簡単に原発回帰する現実に、新聞は国民の間に議論を導く十分な報道を展開できているのかと自問する。そして、原発行政と事業者を住民の立場から監視すべきとの信念で、脱原発、再生可能エネルギー拡大の視点から記事を書き続けた。定年後、本社でただ一人一年更新の再雇用ライターに採用されてからも、そのスタンスは曲げなかった。福島の帰還困難区域で、ふるさとを追われた人々の終わらぬ苦しみをすくい上げ、宮崎の農山村で、集落ぐるみで取り組む小水力発電をルポするなど記者魂を燃やした。だが、株主である九州電力の立場に配慮を求める同調圧力は強まり、次第に記事は棚上げされ、孤立を深めていく。それでも周囲の記者たちに向けて意見や感想を口にする一声運動や、かつて評価してくれた人脈を頼るなどして何とか書きつないだが、次の契約交渉で提示された業務内容は、取材と執筆を含まないという、記者の命脈を断ち切るものであった。

 最後に、経営の論理と報道の自由の間でどう折り合いを付けるかと問いかける。これは西日本新聞社だけの問題ではない。(飯澤文夫)

◆1600円・B6判・199頁・南方新社・鹿児島・202501刊・ISBN9784861245305

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『不謹慎な旅 2 −負の記憶を巡る「ダークツーリズム」』●木村聡 著

書影

 過去の暗闇の中に消えようとする、負の歴史遺産。そうした歴史をたどる旅を著者は「ダークツーリズム」と称しています。それは時に人の心の痛みに触れてしまうことさえある、まさに『不謹慎な旅』ともいえます。第一弾から約3年『週刊金曜日』の連載がまとまり第二弾の刊行となりました。

 今回著者が訪れたのは原発の廃炉が続く福井県の敦賀市や、各国政府に対しての抗議の声が渦巻く駐日各国大使館前など現在進行形の問題の現場から、戦中に強制労働を強いられた中国人の蜂起事件(花岡事件)の記憶が残る秋田県大館市や、太平洋戦争末期に陶器で作った爆弾が作られその廃棄跡が今も残る埼玉県川越市といった歴史の跡まで。有名無名の過去を探る35の旅が収められています。

 負の歴史遺産ということで、記憶が継承されないこともあるのかも知れませんが、そんなことがあったのかと初めて知るような歴史も多く掲載されています。むしろ負の遺産であるからこそ、今を生きる人々がそこから学べることはまだまだ沢山あります。多摩川のホームレス・冤罪事件被害者の免田栄氏・政官財の癒着につぶされた地元観光会社など、世の理不尽にさらされる人々もそこにはいました。語り継ぐ人がいなければいずれは闇の中に消えてしまう歴史も著者は丹念な取材ですくい上げています。『不謹慎な旅』は時に目をそむけたくなるような旅かもしれませんが、決して忘れてはいけない記憶の詰まった旅でもあります。(副隊長)

◆2000円・A5判・258頁・弦書房・福岡・202501刊・ISBN9784863293038

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『向日葵』●安森信 著

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 とても「静かな」写真集である。高台から海を眺める老人、路地や坂、テーブルの上の古い新聞記事とアルバム。そして向日葵。時折り、様々な人物のポートレートがさし挟まれる。教会の風景や眼鏡橋、平和記念像もあることから場所は長崎か、ということがわかる。本写真集のあとがきや帯文などの意味情報一切を括弧に入れ、遮断し、写真そのものと向き合うなら、まずは一枚一枚の写真に湛えられたその静けさに心打たれずにはいられない。けれども、「〈人間はいったい何をしているのか〉、長崎平和宣言でこう問いかけていた長崎市長・伊藤一長は、2007年に銃撃され帰らぬ人となった」という帯文の意味情報を括弧から外して解放した途端に、静かな写真の数々が、新たな文脈に染め上げられていくのである。例えば、町角の隅で剥がれかけた「暴力追放の日」の啓発ステッカーでさえその銃撃事件を映し出している断片として目に飛び込んでくるようになる。数々のポートレートは伊藤元市長の知人であり縁者だった。

 本人もまた伊藤元市長の縁者である写真家は、自分にできることは写真を撮ることしかない、と思いつつも遺族の気持ちを考え、この大きすぎる出来事を撮ってはいけないと思ったという。しかし、故人の献花台が2019年に撤去されることが決まり、事件の風化を危惧するようになる。そして「写真で残すべき」との想いが強くなった…そうあとがきで書いている。なお、向日葵は伊藤一長元市長が好きな花だったという。(N)

◆4500円・220mm×190mm判・95頁・赤々舎・京都・202412刊・ISBN9784865411942

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『ボブ・ディランの詩学』●大八木敦彦 著

書影

 2016年、歌手として史上初のノーベル文学賞を受賞したボブ・ディラン。「新たな詩的表現を創造した」というのが受賞理由であるが、ノーベル賞が創設されて以来百数十年の歴史の中で間違いなく画期的で革命的な受賞例と思われる。本人も「歌詞は音楽以上に大事だ。歌詞がなければ音楽は存在し得ない」と1960年代のインタビューで語っていたほどである。

 本書は、いったん発してしまえば消すことができない話し言葉の持つ不安定さと危険性から話すことが億劫で書き言葉を信頼する詩人で大学教授の著者の批評エッセイ集。第一 章『旅してゆく人びと』では、まず奈良美智の講演会について取り上げ、詩人で文学研究者であり書家としても活躍した恩師の故・原子朗の功績、サン=サーンス作曲の『動物の謝肉祭』のコンサートで曲の合い間に入れた自作の詩全14作が紹介され、美術、音楽、文学の世界が広がる。第二章は本書タイトルと同じで、ボブ・ディランのデビューから現在まで、代表曲『風に吹かれて』や『ライク・ ア・ローリング・ストーン』などの詞(詩)を中心に生きざまにも迫っていく。1962年、21歳でデビューした現在八十代のアーティストが2020年に『最も卑劣な殺人』で初のチャート第一位を獲得したのは驚愕の事実である。

 現代では書く言葉を広く伝えるための最善 の方法が話すことという逆説も成り立つが、 それを歌で体現したのがボブ・ディラン、と いう詩人ならではの視点が興味深い。(Y)

◆1800円・四六判・277頁・白船社・東京・202501刊・ISBN9784877821500

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