地方・小出版流通センター発行情報誌「アクセス」より
1931年の満洲事変で中国東北部を占領したわが国は農業移民政策を推進し、1945年までに27万人を送り込んだ。なかでも長野県は3万3千人と突出している。移民はソ連国境に近い100程の開拓団に配された。開拓といいながら、ソ連の侵攻を防ぐ役割を期待され、家と畑は現地人から収用したものであった。暮らしは辛酸を極め、多くの戦死者、病死、特に敗戦時には悲惨な集団自決と残留婦人・孤児を生み、半数は二度と故郷の土を踏むことができなかった。
長野県立歴史館員であった著者は、戦後67年目の2012年に、全国に先駆けて満州移民展を企画する。長野県にとって満州移民は大きなタブーであり、障害も少なくなかった。過度に心情に訴えるのではなく、3万3千人の重みを客観的に感じてもらおうと、氏名、出身市町村、開拓団名、性別、年齢、消息(生死、帰還、未帰還)をデータ化し、全てを書き出して展示する異例な形になった。一人ひとりの生きた証を示したもので、大きな反響を呼んだ。データからは、例えば、現下伊那郡豊丘村の女性帰還率28%という現実が浮かび上がる。膨大な数の犠牲者が日本近代史の中で持つ意味は何か、そもそも満洲移民は必要だったのか。新しい世代に向けて問いかけ、戦争の愚かさを繰り返し訴える。満洲体験は、もはや人も物も眼前から消えつつあるが、データは体験を語り継ぐ場としてこれからも有効である。ほかに、飯田出身の博物学者田中芳男についてなどの地域史論考数編を収める。(飯澤文夫)
◆2400円・A5判・365頁・龍鳳書房・長野・202501刊・ISBN9784947697868
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江戸、東京、歴史、文学といった言葉を冠した散歩本は、ネット検索すれば類書が山ほど見つかるジャンルだ。そんな中で本書固有の価値はどこにあるのか、少々意地悪な眼で読み始めた。ところがどっこい、実にユニークな本だった。まず、気がついたのは、携えて街を歩くことを前提に制作されていること。サイズは読みやすいけれど大きすぎないA5版で、路上で開く際に邪魔な表紙カバーがない。章によってはページの途中から始まる箇所があり、不思議に思ったが、少しでもページ数を減らして、コスト削減と同時に軽量化を図る工夫なのではないかと思う。散歩に必要不可欠な地図は一つのコースについて最大5つに分けて掲載され、読者は迷わずにコースを踏破できるであろう。文章も面白い。「ぺんぷらざ」という同人誌に連載された作品が元になっているそうで、元が同人誌ゆえ忖度なしに、書かれた記述が随所にあり、類書とは一線を画している。
コース設定もいい。行政区画を超えるコースもあるが、これは近年増加している自治体が無償配布する小冊子では不可能なコース設定なのだ。そして各コースを精査すると、著者がコースを何度も踏査し、参考資料を詳細に調べ、歩いて見つけた新しい情報も盛り込んでいることがわかる。例えば評者にとって馴染のある「池袋の周辺」について見ると初めて知る事実が数多くあり、著者の調査能力に舌を巻いた。一見地味だが、よく考えて作られている良書だ。(石井一彦)
◆1500円・A5判・134頁・高遠書房・長野・202504刊・ISBN9784925026581
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火は人間の生活に必要不可欠なものだが、 火打石など昔の発火法は手間がかかった。18 27(文政10)年にイギリスの薬剤師ウォーカ ーが「摩擦マッチ」を考案。火の点き方が悪 い、自然発火するといった欠点が改良され、1855(安政2)年、スウェーデンのジョワンによって今のような小箱の形の安全マッチが 発明された。日本では1875(明治8)年に旧 金沢藩士でフランスに留学して化学などを学んだ清水誠によって初めて製造され、会社も 設立。日本はスウェーデン、アメリカと並んで世界三大マッチ生産国となった。日本で初めて猫柄商標登録マッチラベルが誕生したの は1887(明治20)年。以降、猫をモチーフにした商標登録マッチラベルは77件に及ぶ。
本書はこの明治・大正の商標登録マッチ、昭和の広告マッチ、ブックマッチ、さらに日 本のみならず世界の猫マッチラベル、作品として作られたアーチストのオリジナル猫マッチラベルまで余すところなく約2000点を収録。著者の加藤豊はマッチラベルコレクター、板東寛司は猫専門カメラマン(キャトグラファ ー)として活躍中。二人のタッグが猫好き、アート好き、レトロ好きにはたまらない図録を生み出した。2025年は国産マッチ創業150年、昭和100年に当たり、記念出版でもある。1975(昭和50)年に使い捨てライターが登場、家庭内ではガスコンロ等の自動着火装置の普及によりマッチの生産量は激減してしまったが、猫たちの小さな世界は永遠に火をともし続ける。(Y)
◆2700円・A5判・240頁・風呂猫・東京・202502刊・ISBN9784904732908
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高い技術や知識を獲得し、その知財を社会に還元していくべき大学人の倫理観が揺らいでいる、と本書の著者の一人はいう。新渡戸稲造はかつて「知識思想は天より預かりしものなれば、一人一家の秘蔵すべきものではない。あまねく世界に提供すべきもの」と言った。公の利益のために自分にできることを進んで行うという倫理は今も変わらず重要である、と。本書は新渡戸の生涯を辿るとともに、このような新渡戸の理念を継承する一般社団法人新渡戸稲造遠友リビングラボのことを紹介している。ラボは、札幌農学同窓会(北海道大学同窓会)のメンバーが運営に携わり、その活動拠点となるべきNELL(Nitobe Enyu Living Lab.)を、かつて新渡戸が開いた夜間の私立学校「札幌遠友夜学校」跡地に建設し、新たなまちづくりの核として活用するための運動「NELL」プロジェクトを展開中である。
新渡戸の札幌遠友夜学校は貧しい子どもなどに無料で教育を施し、北大の学生たちが無償で教師を務めた。教室の外でも教師と生徒、性別、職業、年齢の垣根なく交流する機会が用意された。これを原形とし、NELLは、北海道大学、札幌市、地域住民と企業等が、課題解決や人材育成のために参画するが、誰もが自由に出入りし、教える立場と教えられる立場の上下関係がないフラットな空間づくりを目指すとされる。知財を活用し、その地に固有な教育の伝統を範例としてまちづくりに生かしていくという構想には大きな可能性を感じる。(N)
◆1000円・A5判・62頁・寿郎社・北海道・202503刊・ISBN9784909281678
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日本全国の趣のある銭湯や個性的な銭湯、そしてその街の雰囲気さえも伝えてくれる『旅先銭湯』。今回の舞台は京都です。さすが古都京都というべきか、なんと創業100年を超える銭湯も存在しています。そのひとつ長者湯は唐破風の玄関から男湯と女湯が分かれている昔ながらの店構え。脱衣場には清水寺と金閣寺のタイル絵があり、荷物を入れる柳行李ごとロッカーにしまうという伝統的京都スタイルの銭湯です。しかしそんな長者湯も時代の流れに逆らえず試行錯誤を繰り返しています。やはり他の街と変わらず京都でも次第に銭湯はその数を減らしてきていたのでした。
しかし根強い銭湯ファンもいます。京大や立命館大の銭湯サークルの人たちが銭湯の掃除などのサポートに入ったり、銭湯の経営を買って出る、ゆとなみ社という会社が経営を引き継いだりもしています。ゆとなみ社が経営するサウナの梅湯は、レトロな雰囲気に店の若者の感性が入り混じり独特な空気が漂います。もちろんそれ以外にも、昔から地元の人々が足を運び続ける銭湯も多士済々。オリジナル清水焼作品が溢れる創業131年の京都玉の湯、インコがいっぱいの松葉湯、独創的な意匠で埋め尽くされた桂湯などの個性派銭湯から、伝統的スタイルの銭湯まで様々な銭湯が紹介されています。そして銭湯周辺の「うまいもん」紹介も相変わらずの充実ぶり。紙面で楽しむもよし、実際に行くもよし、早くも第2集が楽しみな京都湯めぐりです。(副隊長)
◆1600円・A5判・135頁・さいろ社・兵庫・202503刊・ISBN9784916052803
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